- 差の正体在庫が合わないのは数え方の問題ではありません。日々の出し入れが記録に残っていないからです。差を生む出どころは、おおむね4か所に絞れます。
- 先に止める年1回の棚卸を待たず、合わなかった品番を1か月だけ追います。自店で一番多い出どころが1つ見えたら、まずそこを止めます。
- 数え方を変える全品を一度に数えるのをやめ、動きの速い定番部品だけを月1回数える循環棚卸にすると、手間を増やさずに差が小さくなります。
なぜ、毎回ちょうど合わないのか
棚卸のたびに帳簿の数と棚の現物がずれていて、原因が分からないまま数だけ直して終わる。あなたが在庫の差で時間を取られているなら、まず疑う場所は「数え方」ではありません。数えること自体は、丁寧にやれば誰でも合わせられます。合わないのは、入庫と出庫のあいだで起きた出し入れが、記録に残っていないからです。
整備の現場では、部品はピットで動きます。作業の手を止めずに出庫を1枚ずつ付けるのは、思っているより難しい。だから記録が後回しになり、月末や年末に「棚を数えたら台帳と違う」という形で表に出ます。差を消したいなら、数え直す前に、差がどこで生まれているかを止めにいきます。
整備の仕事そのものは伸びています。日整連の令和6年度調査では、総整備売上高が6兆2,561億円と18年ぶりに6兆円を超えました。入庫が増えるほど部品の出し入れも増え、記録の抜けが差になって積み上がります。売上が動くいまのうちに、在庫の合わせ方を仕組みにしておきます。
差は、どこで生まれているか
在庫差は、多くは次の4か所のどれかで生まれます。自店でどれが多いかを見当づけるために、まず一覧で押さえます。
| 出どころ | 起きていること | 差の向き |
|---|---|---|
| 出庫の付け忘れ | 作業で使った部品を、忙しさで記録しないまま取り付けた | 台帳が多い(現物が少ない) |
| 記録しない仕入れ | 現金や立替で部品商から急ぎ買った分を、入庫に載せていない | 現物が多い(台帳が少ない) |
| 戻し入れの抜け | 使わずに返した部品を、在庫に戻す処理をしていない | 台帳が少ない(現物が多い) |
| 置き場所の崩れ | 同じ品番が複数の棚に分かれ、数え漏らす・二度数える | どちらにも振れる |
4つのうち、整備工場で一番多いのは出庫の付け忘れです。ピットで部品を使った瞬間が、記録から一番遠いからです。次に多いのが、急ぎで買った部品の仕入れ漏れ。お客さんを待たせまいと走って取りに行った分ほど、記録が抜けます。あなたの店で「あるある」と感じた行が、最初に手をつける場所です。
合わない品番を1か月だけ追いかける
4つのうちどれが多いかは、推測では当たりません。年1回の棚卸を待たず、1か月だけ「合わなかった品番」を記録します。やることは少なくて済みます。
用意するのは1枚のメモだけ
棚の見やすい所に紙を1枚貼ります。「合わない、と気づいた品番」「日付」「多いか少ないか」だけを、気づいた人がその場で書きます。原因の追及はしません。事実を拾うだけです。
1か月たったら、出どころで分ける
集まったメモを、上の4つの出どころに振り分けます。台帳が多い差ばかりなら出庫の付け忘れ、現物が多い差ばかりなら仕入れ漏れか戻し入れの抜け、と見当がつきます。
一番多い1つだけを、先に止める
4つ全部を一度に直そうとすると、現場が覚えきれずに元へ戻ります。一番多い出どころを1つ選び、そこだけを止める手を打ちます。1つ止まって差が減るのを現場が見れば、次の手も入りやすくなります。
多くの工場では、この1か月で出庫の付け忘れが頭ひとつ抜けて多いと分かります。その場合に効くのが、次の出庫の付け方です。
出庫をその場で付ける流れにする
出庫の付け忘れを止める方法は、後でまとめて付けるのをやめ、部品を棚から取った場面で付け終える流れに変えることです。あとで付けようとすると、必ず忘れます。場面を記録に近づけます。
- 棚から取るときに付ける――部品を持ち出した人が、その場で出庫票を1枚書くか、伝票の品番に印を付けます。ピットへ運ぶ前に終える、を守ります。
- 作業指示書と出庫を1枚にする――その車の作業指示書に部品欄を作り、使った部品をそこへ書けば、出庫の記録と請求の根拠が同時に残ります。二度書きも消えます。
- 取り置きと出庫を分ける――先に出しておくだけの部品は「取り置き」として棚の別の場所へ。実際に取り付けたときに出庫へ移します。出した時点で在庫から引くと、戻し入れの抜けが増えます。
全品を数えない、循環棚卸という手
出し入れの記録が残るようになっても、年に1回、棚の全部を一度に数えるやり方のままだと、棚卸の負担は重いままです。そこで、数える対象を分けます。
動きの速い定番部品――オイル、エレメント、ワイパー、バッテリー、よく出る消耗品――だけを、月に1回数えます。これを循環棚卸と呼びます。動きが速い部品は差も出やすいので、月単位で合わせておけば、年末にまとめてずれる事態を防げます。動きの遅い部品は半年に1回でかまいません。
| 部品の種類 | 数える頻度 | ねらい |
|---|---|---|
| 定番・消耗品(よく出る) | 月1回 | 差が大きくなる前に止める |
| 一般の補修部品 | 半年に1回 | 動きを見ながら数を直す |
| めったに出ない部品 | 年1回 | 動かない在庫の洗い出しを兼ねる |
循環棚卸にすると、1回あたりの数える量が減るので、作業の合間や閉店後の短い時間でも回せます。全品棚卸の日に1日仕事が止まる、という負担も軽くなります。年1回の全棚卸は残しますが、月次で合わせてあれば、その日の差はわずかで済みます。
動かない在庫と、棚卸表の保存義務
在庫を合わせていくと、長く動いていない部品が必ず見つかります。半年から1年動いていない部品を、棚卸のたびに別リストへ移し、置き場所を一か所にまとめます。動かない在庫は、棚を圧迫するだけでなく、数え間違いの元にもなります。同じ品番が使う棚と動かない棚に分かれていると、出どころの4つ目「置き場所の崩れ」を自分で増やすことになります。
返品できるものは部品商に相談し、使う見込みのあるものだけを残します。処分や返品をしたら、その記録を残してください。棚卸表は国税関係書類にあたり、原則として作成した事業年度の確定申告期限の翌日から7年間の保存義務があります。減らした分も「いつ、何を、どうしたか」を書き残しておけば、後で在庫の金額を問われても説明がつきます。
手書きで合わせてから、システムに乗せる
「在庫管理システムを入れれば合うのでは」と考えたくなりますが、順番が逆です。システムを入れても、出庫をその場で付ける流れができていなければ、入力が抜けて同じように差が出ます。先に直すのは入力の習慣のほうです。
紙の出庫票でも、置き場所を決めて品番を貼り、使ったらその場で1枚書く流れができていれば、在庫は合います。台数が増えて手書きが追いつかなくなったときに、いま回っている流れをそのまま乗せられるシステムを選びます。選ぶときに確かめるのは、機能の数より次の3点です。出庫を作業の場で1操作で付けられるか、定番だけの循環棚卸ができるか、やめるときに在庫データを取り出せるか。Excelで台帳をつけている段階なら、まずその限界の見分け方から確かめてください。
自店の在庫差、どこから止めるか相談したい
出庫・仕入れ・戻し入れ・置き場所。あなたの店でどの出どころが一番多いか、合わない品番の追い方から一緒に整理します。
相談する(準備中)お問い合わせ窓口は近日開設します。
よくある質問
- 一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会(JASPA)「令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要」(総整備売上高6兆2,561億円・前年比5.9%増の根拠)
https://www.jaspa.or.jp/Portals/0/resources/jaspahp/member/data/pdf/R06jittaityousa.pdf - 国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」(棚卸表など国税関係書類の原則7年保存の根拠)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5930.htm