- 守る考え方コピーを3つ持ち、媒体を2種類に分け、うち1つは店の外に置く。バックアップで古くから使われてきた3-2-1の考え方です。1か所にまとめて置く限り、火事も水もランサムウェアも一度に全部を奪います。
- いちばん危ない穴つなぎっぱなしの外付けは、感染すると本体ごと暗号化されます。警察庁の調査でも、被害組織の多くがバックアップを持っていたのに、復元できなかった組織の7割超が「バックアップごと暗号化されていた」と答えています。
- あなたが今日できる一手顧客台帳と整備履歴を月に一度CSVで書き出し、店の外に1つ置く。これだけで「全部消える」が「少し戻すだけ」に変わります。
何が消えると、いちばん困るのか
パソコンが朝に立ち上がらない。あの一瞬を思い浮かべると、あなたが本当に困るのは機械ではなく、その中の顧客台帳と整備履歴のはずです。新しいパソコンは買えば届きますが、何十年ぶんの「誰の・どの車を・いつ・何をしたか」は、お金を出しても二度と手に入りません。車検の満了日も、次回の案内先も、ここに入っています。
消える原因は、ニュースになるサイバー攻撃だけではありません。ハードディスクの寿命、水びたし、火災、盗難、そして担当者がうっかりフォルダごと消す操作ミス。原因はばらばらでも、結果は同じで「店の中の1か所に置いていたデータが、まとめて無くなる」です。だから守り方の軸は1つ、置き場所を分けることに絞れます。
3つに分けて、1つは外に置く
分け方には、世界で使われてきた目安があります。3-2-1の考え方といい、バックアップの分野で古くから知られた基本です。中身は3つの数字でできています。
| 数字 | 意味 | 整備工場での当てはめ |
|---|---|---|
| 3 | データのコピーを3つ持つ | 使っている本体+控え2つ。1つ壊れても2つ残る |
| 2 | 2種類の媒体に分ける | 店のパソコン(または外付け)と、クラウドのように別の仕組み |
| 1 | 1つは別の場所に置く | クラウド、または社長の自宅など、店が燃えても残る所 |
ねらいは単純です。コピーが3つでも全部が店の同じ棚にあれば、火事や盗難で一度に消えます。だから種類を2つに、置き場所のうち1つを店の外に。この「外の1つ」が、最後にあなたを助けます。クラウドの業務管理システムを使っているなら、その1つはすでにある状態に近く、足りないのは手元の控えのほうです。
外付けひとつでは守れない理由
「外付けハードディスクに毎晩コピーしている」。よく聞く備えですが、つなぎっぱなしだと、この外付けが一番の弱点になります。パソコンがランサムウェアに感染すると、つながっている外付けの中身も同時に暗号化され、本体と一緒に人質に取られるためです。
これは想像ではなく、数字で出ています。警察庁が毎年まとめる「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」では、ランサムウェアの被害を受けた組織のうち、バックアップを取っていたのは約9割(136件中122件)でした。ところが、そこから復元できたのは4分の1ほど(110件中29件)にとどまります。戻せなかった理由を答えた74件のうち7割超(54件)が「バックアップごと暗号化されていた」でした。取っていたのに、つながっていたから一緒にやられた。これが現実です。
ランサムウェアは遠い大企業の話に見えますが、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向けの脅威の1位はランサム攻撃でした。1位は11年続いています。規模の大小ではなく、つながっている所を狙う攻撃だと考えるほうが、備えを間違えません。
店の規模に合わせた組み方
3-2-1を守るやり方は1つではありません。今の店の道具に合わせて、いちばん続けられる形を選びます。下に3つの型を並べます。上から順に手間が増えますが、その分だけ守りも厚くなります。
型1: クラウドの業務管理+月一の手元控え
すでにクラウド型を使っているなら、別の場所の1つはそこが担います。足りない手元の控えは、月に一度、顧客と整備履歴をCSVで書き出してパソコンか外付けに保存。これで3-2-1にほぼ届きます。いちばん少ない手間で始められる形です。
型2: 店のパソコン+外付け+クラウド保管
店のパソコンで台帳を持っている場合。外付けに毎日コピーし、コピー後は線を抜く。さらに週に一度、クラウドの保管サービスへ上げて外の1つにする。手間はかかりますが、攻撃にも災害にも強くなります。
型3: 自動同期+世代を残す設定
毎回手で操作するのが続かないなら、自動でクラウドへ写す仕組みにし、過去何世代かを残す設定にします。古い状態に戻せるので、間違って消した・暗号化されたという時も、その前の日に戻れます。設定の初回だけ詳しい人に頼むと確実です。
どの型でも、外に置く1つを必ず入れてください。店の中だけで完結する組み方は、コピーをいくつ増やしても、火事や盗難の前では1つと同じです。
取れているつもりを、年に一度ためす
バックアップでいちばん怖いのは、「取れているつもり」で、いざという時に戻せないことです。設定したまま何年も中身を見ず、復元しようとしたらファイルが壊れていた、という話は珍しくありません。だから、取る仕組みと同じくらい、戻せるか確かめる手順を持っておきます。
- 年に一度、控えから顧客1件・整備履歴1件を実際に開いてみる。中身が読めれば合格、開けなければ取り方を見直す。
- 担当者が辞めても回るように、どこに何をどう戻すかを紙1枚に書いて、社長も場所を知っておく。
- クラウドを使うなら、解約したときに自分のデータをCSVなどで取り出せるかを、契約前に確かめる。出せないと、乗り換えのたびに人質になります。
この確認は、3つそろえる作業よりも忘れられがちです。半期に一度、車検の繁忙が落ち着いた時期に手帳へ書き込んでおくと、つもりのまま放置するのを防げます。
整備記録簿も同じ守りに入れる
守る対象は、顧客台帳と請求データだけではありません。点検整備記録簿は保存が求められ、過去にどんな作業をしたかをさかのぼる元にもなります。紙のファイルだけで持っていると、水や火で一度に失い、保存の義務も同時に崩れます。
記録簿を電子化したうえで、顧客台帳と同じ3-2-1の対象に入れておくと、保存を満たすことと消失を防ぐことが、別々の作業ではなく一続きになります。新しい台帳に移すついでに、過去の記録もまとめて控えを取る。引っ越しのタイミングは、守りを整え直す好機です。台帳の移し方そのものは、関連記事の手順が参考になります。
自店のデータの守り、どこから固めるか相談したい
顧客台帳・整備記録・請求データ。何を・どこに・いくつ控えるか、今の道具に合わせて一緒に組み立てます。
相談する(準備中)お問い合わせ窓口は近日開設します。
よくある質問
- IPA(情報処理推進機構)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(第4.0版・2026年3月27日公開。情報セキュリティ6か条に「バックアップを取ろう!」を追加)
https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html - IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(組織向け1位=ランサム攻撃による被害・11年連続)
https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html - 警察庁「令和6年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(資料編・ランサムウェアの被害に関する統計④。バックアップ取得有122/136件、復元可29/110件、復元できなかった理由は「バックアップも暗号化」54/74件)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R6/R06_cyber_jousei.pdf