- 残すべき範囲車1台ごとの「前回いつ何をしたか」「次回いつ何を見るか」は、店の誰が電話を受けても答えられる状態にする。ここを担当者の頭の中に置いたままにしない。
- 分ける範囲整備の事実は全員が見られて、見積の原価や値引きの経緯は社長と事務だけ。二段に分けると、入力も雑にならず、抱え込みも起きにくい。
- 急ぐ理由自動車整備士の有効求人倍率は5.45倍(令和6年度)。一人が抜けても代わりはすぐ来ない。履歴が頭の中にあるうちに、店の記録へ移しておく。
担当が休んだ日に、店が止まる
常連のお客さんから電話が入り、「前回みてもらった所、その後どう」と聞かれる。担当のベテランは今日休み。受けたあなたは前回の作業を答えられず、「担当が出たら折り返します」で切る。これが月に何度か起きているなら、整備履歴が一人の頭の中に置かれているサインです。
困るのは折り返しの一手間だけではありません。その人が辞めれば、車ごとの細かな経緯も一緒に店から出ていきます。次に同じ車を受けた整備士は、前回どこをどう触ったかを車を見て一から探ることになり、聞けば済んだ確認に時間を取られます。履歴を共有するかどうかは、整理整頓の好みではなく、誰が受けても同じ品質で答えられるかという店の足腰の話です。
この記事では、整備履歴のどこを店全体で見られるようにして、どこは担当の頭のままでいいのか、その線引きを決めます。
店に残す履歴と、担当の頭でいい情報
「全部を全員に開く」も「担当に任せる」も、どちらも続きません。前者は入力が増えて現場が嫌がり、後者はその人が休んだ日に答えられなくなります。情報を性質で分けて、店に残す範囲だけを先に決めます。
| 情報 | 性質 | 残し方 |
|---|---|---|
| 前回の作業日・作業内容・交換部品 | 車1台の事実 | 店の記録として全員が見られる |
| 次回の点検・車検の予定、次に見る箇所 | 車1台の事実 | 店の記録として全員が見られる |
| 過去のクレームや言った言わないの経緯 | 対応の要点 | 要点だけ記録、詳細は担当が補う |
| お客さんの口調・好み・世間話の中身 | 担当の感覚 | 担当の頭のままでよい |
上の2行、つまり前回と次回の事実は、必ず店の記録にします。ここが残っていれば、担当が休んでも「前回◯月に右前のブレーキパッドを交換しています」と誰でも答えられます。下の2行は人の感覚に寄る部分で、無理に文字へ起こすと入力が重くなるだけです。残すのは事実、補うのは担当、と割り切ります。
見られる範囲を二段に分ける
残す範囲を決めたら、次は誰がどこまで見られるかです。全員が同じ画面で全部を見る必要はありません。役割で二段に分けると、入力が雑にならず、表に出したくない数字も守れます。
一段目: 整備の事実は全員が見る
作業日・作業内容・交換部品・次回点検の予定。フロントの事務でも、別の整備士でも、その場で引いて答えられる範囲です。電話口で「前回いつ何を」に答えるのに、原価まで見える必要はありません。
二段目: お金の中身は社長と事務だけ
見積の原価、値引きの経緯、仕入れ値。これを全員に開くと、雑談で漏れたり、価格交渉で足元を見られたりします。整備の事実とは別の引き出しに入れ、見られる人を絞ります。
多くの自動車店では、この二段で足ります。営業や買取まで扱う店なら、お客さんの与信や過去のトラブルをもう一段奥に置く形もありますが、まずは「整備の事実は全員」「お金は絞る」の二段から始めるのが無理のない順です。誰が何を見るかを先に紙へ書き出してから、仕組みに載せます。
記録簿と共有は、別の話として持つ
「点検整備記録簿があるのに、別に共有する意味があるのか」とよく聞かれます。記録簿は保存のための書類で、日々引く共有とは目的が違います。点検整備記録簿は、自家用車(1年点検)なら記録した日から2年、3か月・6か月点検の事業用車両なら1年の保存が、道路運送車両法と自動車点検基準で決まっています。これは法定の保存で、満たさなければなりません。
ただ、紙の記録簿を綴じておくことと、電話を受けた人が「あの車の前回」をすぐ引けることは別です。綴りから1台ぶんを探すと時間がかかり、結局は担当に聞くことになります。記録簿は法定の保存として残しつつ、日々の問い合わせに使う履歴は車両ごとに検索できる形にしておく。保存と共有を別の引き出しとして持つと、どちらも回ります。
作業日と内容から、抵抗なく始める
ベテランが共有を嫌がる店は珍しくありません。長年の経験を頭で抱えるのが仕事の誇りでもあり、入力が増えると言われれば身構えます。だから始めは要点だけに絞り、本人の手間を増やさない形から入ります。
- まず残すのは作業日と作業内容の2つだけ――1台あたり数行で済む量から始める。最初から細かく書かせると続きません。
- 次回の点検・車検の予定を足す――抜けると取りこぼしに直結する情報なので、ここまで来ると共有の効きめを現場が感じます。
- 入力の場所を1つに決める――同じ情報を紙とパソコンの両方に書かせない。二度書きになると、忙しい日に後回しにされます。
抱える側には、「あなたの仕事を取り上げるのではなく、あなたが休んだ日に店が止まらないようにする備えだ」と伝えます。一人が抜けたときの代わりがすぐに見つからない以上、履歴が頭の中にあるうちに店の記録へ移すことが、本人の負担を減らす方向にも働きます。要点だけを残す形なら、抱える側の手間はほとんど増えません。
人が抜ける前提で、履歴を店のものにする
整備の現場は、人が抜ける前提で組まざるを得なくなっています。自動車整備士の有効求人倍率は令和6年度で5.45倍。全職業平均の1.25倍と比べて約4.4倍の開きがあり、求人を出しても応募が来ない、内定を出しても辞退される、という声が地方の中小ほど強く出ています。整備士の平均年齢も上がり続けていて、長年の履歴を頭で持つベテランが、ある日いなくなる現実が近づいています。
そのとき、車ごとの整備履歴が店の記録に残っていれば、後を継ぐ整備士は前回までの経緯を引き継いで仕事に入れます。残っていなければ、お客さんごとに一から探り直すことになり、引き継ぎの時間そのものが店の損になります。整備履歴を店のものにしておくことは、人が辞めても品質を落とさないための保険です。
あなたの店で、いま「あの人しか分からない車」が何台あるか。一度数えてみると、共有の線引きをどこから引くべきかが見えてきます。前回と次回の事実から、店の記録へ移すところから始めてください。
自店の履歴を、どこから店のものにするか相談したい
担当の頭にある履歴を、誰が受けても答えられる形へ。整備の事実とお金の線引きを、自店の役割に合わせて相談を受け付けます。
相談する(準備中)お問い合わせ窓口は近日開設します。
よくある質問
- 国土交通省「自動車点検基準」(点検整備記録簿の保存期間の根拠)/ e-Gov 法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000800070 - 国土交通省「点検整備の種類」(法定点検と記録簿の位置づけ)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha/tenkenseibi/tenken/t1/t1-2/ - 厚生労働省 job tag(職業情報提供サイト)「自動車整備士」(有効求人倍率 令和6年度 5.45倍)
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/197 - 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和6年度分)」(全職業平均の有効求人倍率 令和6年度 1.25倍)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57261.html