- 始め方マニュアルを全部そろえてから始めようとすると、いつまでも始まりません。最初に標準化するのは1作業だけでいい。
- 選ぶ作業毎日くり返していて、担当者によって仕上がりや段取りがぶれる作業を選ぶ。車検の受け入れ点検のような件数が多い定番作業が最初の候補。
- 作り方文章を書き込むより、ベテランの作業を動画で撮り、抜けると事故になる勘所だけ写真と箇条書きで残す。
- 急ぐ理由整備要員の平均年齢は47.2歳。ベテランが抜けたあとも同じ品質を出すための、いまのうちの備えになります。
「マニュアルを全部そろえてから」が止まる理由
「整備 作業 標準化 マニュアル」で調べて、いざ手をつけようとすると、作業の数の多さで手が止まる。受け入れ点検、12か月点検、車検整備、タイヤ交換、板金の段取り。全部に手順書を作ろうと考えた瞬間に、いつ終わるか見えなくなって、結局そのままになっていませんか。
標準化が止まるのは、やる気の問題ではありません。最初から「全部の作業をそろえる」という大きさで考えると、作るだけで何か月もかかり、その間は1枚も現場で使われません。完成を待つあいだに作った人が異動したり、車種が変わって内容が古びたりして、結局お蔵入りします。あなたが必要なのは、分厚い手順書一式ではなく、来週から1つだけ品質がそろう状態です。
標準化するのは、まず1作業でかまいません。1つの作業で「誰がやっても同じ仕上がりになった」という手応えを現場が持てれば、次の作業への抵抗が小さくなります。小さく始めて、効いたものから広げる。これが回り道に見えて、いちばん早く定着します。
最初に標準化する1作業の選び方
どの作業から始めるかは、好みではなく「いま一番ぶれている所」で決めます。見分ける手がかりは3つです。
手がかり1: 毎日くり返している
受け入れ点検や12か月点検のように、件数が多くて毎日のように発生する作業です。標準化した手応えが毎日返ってくるので、効きを実感しやすく、書いたものがすぐ使われます。月に数回しか出ない特殊作業から始めると、書いても使う機会が来ません。
手がかり2: 担当者で仕上がりが変わる
同じ車検でも、ベテランが見ると追加整備の提案が出るのに、若手だと素通りする。点検の所要時間が人によって倍ちがう。こうした「人による差」がはっきり出る作業ほど、標準化で品質がそろう余地が大きい所です。
手がかり3: 抜けるとクレームや事故になる
締め付けトルクの確認漏れ、ブレーキやタイヤの見落とし。1件の抜けが、お客さんの安全と店の信用に直結します。手順を仕組みに載せて確認を抜けなくする値打ちが、いちばん高い所です。
3つのうち、あなたの店で一番「あるある」と思った所が最初の1作業です。多くの整備工場では、車検や法定点検の受け入れ点検が、3つの手がかりにまとめて当てはまります。
作業ごとに見る、標準化の効きめと順番
主な作業について、人によってぶれやすいところと、標準化したときの効きを並べます。上から順に手をつける必要はありません。効きが大きく、現場の抵抗が小さい所から選びます。
| 作業 | 人によってぶれやすいところ | 標準化の効きめ |
|---|---|---|
| 受け入れ点検 | 見る箇所・お客さんへの確認項目が人で変わる | 大(毎日発生・追加整備の取りこぼしが減る) |
| 法定点検・車検整備 | 点検の所要時間と記録の細かさに差が出る | 大(品質と安全に直結・抜けを防げる) |
| 見積・追加整備の説明 | 提案する/しないが担当者の経験頼み | 中(売上のぶれと説明のぶれが減る) |
| 納車前の最終確認 | 確認の手順が頭の中だけにある | 中(出戻り・やり直しが減る) |
受け入れ点検から始めると、毎日発生するので効きをすぐ実感でき、後の見積や整備の質もそろってきます。安全に直結する法定点検から始めると、抜けを防ぐ効果が大きい。どちらも入口として向いています。
読まれるマニュアルの作り方
標準化が続かないもう一つの理由は、作ったマニュアルが読まれないことです。文章を細かく書き込むほど、作るのに時間がかかり、現場は忙しい日に読みません。読まれる形は、だいたい決まっています。
- 手順は箇条書きで並べる――上から順にやれば終わる形にします。長い説明文は、忙しい現場では飛ばされます。
- 抜けると困る勘所だけ目立たせる――トルク値や確認必須の項目など、外すと事故やクレームになる所だけ色や太字で示します。全部を強調すると、どこも目立ちません。
- 写真や動画を1つ添える――手元の写真が1枚あれば、文章を読まなくても伝わります。複雑な作業はベテランの手元を動画で撮っておくと、新人がくり返し見られます。
- 使いながら書き足す――最初から完璧をめざさず、現場で「ここが分かりにくい」と出た所をその都度足します。使われるマニュアルは、必ず更新の跡があります。
ベテラン依存をどう解くか
標準化のいちばんの壁は、手順がベテランの頭の中だけにあることです。本人に「やり方を書いて」と頼んでも、ふだん体で覚えていることは言葉にしにくく、後回しになります。
早いのは、書かせるのではなく撮らせてもらうことです。ふだんの作業を、本人の手元を中心に動画で撮ります。撮りながら「いま何を見ているか」を一言ずつ話してもらえれば、それがそのまま勘所になります。あとから要点だけ文字に起こせば、ベテランが文章を書く負担はほとんどありません。
進め方で大事なのは、標準化をベテランのやり方を否定する話にしないことです。狙いは、その人の腕を下げることではありません。その人が休んだ日や辞めたあとも、店が同じ品質を出せるようにしておくことです。「あなたの腕を、店の財産として残させてほしい」と伝えると、協力を得やすくなります。
高齢化と採用難が、いま進める理由
「いつかやろう」で止まりがちな話ですが、現場の人の事情のほうが先に動いています。日本自動車整備振興会連合会の令和5年度調査では、整備要員の平均年齢は47.2歳まで上がり、前年より0.5歳高くなりました。専業・兼業に限ると51.7歳です。整備士の有効求人倍率も高い水準が続き、若い人を採りたくても採れない状況が出ています。
この数字が意味するのは、ベテランが抜けたあとを若手で埋めにくい、ということです。手順がその人の頭の中だけにあると、辞めた瞬間にその作業の品質が落ち、最悪は止まります。逆に、いまのうちに作業を仕組みに残しておけば、新しく入った人が早く戦力になり、採用が難しい時期の備えになります。標準化は品質をそろえる話であると同時に、人手が細っていく数年への備えでもあります。
全部を一度にそろえる必要はありません。来週、一番ぶれている1作業を動画で撮るところから始めれば、それが店に残る最初の一歩になります。
自店のどの作業から標準化するか、相談したい
受け入れ点検・法定点検・見積。どの1作業から仕組みに残すと効きめが大きいか、自店の状況に合わせて相談を受け付けます。
相談する(準備中)お問い合わせ窓口は近日開設します。
よくある質問
- 日本自動車整備振興会連合会(JASPA)「令和5年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要」(整備要員の平均年齢47.2歳・専兼業51.7歳の根拠)
https://www.jaspa.or.jp/Portals/0/resources/jaspahp/member/data/pdf/R05jittaityousa.pdf - 国土交通省「自動車整備士の確保・育成に係る課題とこれまでの取組」(整備士の求人倍率・人材確保の状況)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001877732.pdf