Q.仕入れ値から積み上げると、なぜ売れ残るか
仕入れた車の値札を、いくらにするか。電卓を前に手が止まる場面が、あなたにもあるはずです。多くの店で起きているのは、仕入れ値に決まった粗利を足して売価を出す付け方です。一見すると筋が通っていますが、ここに落とし穴があります。
高く仕入れた車ほど、この計算では売価も高くなります。ところがお客さまは、あなたの仕入れ値を知りません。見ているのは、他店の同じような車と並べたときの価格です。仕入れが高かった車に粗利を上乗せすれば、相場より高い値札が付き、問い合わせが止まります。動かない在庫は、金利と保管費で粗利を毎日削り続けます。値付けの失敗は、値札を貼った瞬間ではなく、その後の長い滞留として表れます。
順序を入れ替えます。先に相場から「この車は自店でいくらなら売れるか」を決める。これが標準売価です。そこから商品化費と目標粗利を引いて、残った額に仕入れが収まっていたかを確かめる。売価は相場が決め、仕入れ値は売れるかどうかを判定する材料に回ります。仕入れの上限の出し方は 中古車の相場のつかみ方 と表裏です。値付けは、仕入れの段階ですでに半分決まっています。
Q.いまの相場 ― 台数は前年割れ、単価は高値
値付けの前に、いま売り買いしている市場の温度を押さえます。2025年の中古車登録台数は、前年比0.8%減の363万2179台でした。前年を下回るのは3年ぶりです。なかでも小型乗用車は3%減の118万970台で、過去最低を記録しています(出典1)。
台数が減る一方で、取引の相場は下がっていません。オークション大手のユー・エス・エス(USS)の成約車両単価は、2025年10月に130万5000円で過去最高を更新しました(出典4)。流通する車が減り、1台あたりの取引額は高い。この組み合わせは、仕入れが高くつきやすいことを意味します。
仕入れが高い局面ほど、上乗せ式の値付けは危なくなります。高い仕入れに粗利を足せば、表示価格は相場の上に飛び出します。だからこそ、売価を相場から決めて粗利を確保する順序が、この市場では粗利を残します。
Q.相場を3点で取って標準売価を置く
標準売価の精度は、相場をどこまで正確につかめるかで決まります。1つの情報源に頼らず、3つを重ねます。
- オークションの過去落札相場 ― 同じ車種・年式・走行・グレードが、直近の会場でいくらで成約したか。仕入れ原価の目安になります。
- いまの店頭相場 ― 同条件の車が、近隣や全国の販売店でいくらの売価で並んでいるか。これが自店の表示価格の天井です。
- 自店の販売実績 ― 似た車を、自店が過去に実際いくらで何日で売ったか。立地と客層を反映した、最も当てになる数字です。
3つがそろえば、売価に幅ではなく1つの数字を置けます。たとえば店頭相場が120万円台で、自店では過去に同等車を118万円前後で売ってきたなら、標準売価は118万円に置く、という具合です。相場の読めない珍しい車は、この3点目が欠けたまま値付けすることになります。慣れないうちは、相場のはっきりした定番車に絞ると、値付けも安定します。
Q.標準売価から下限を出す
標準売価が決まったら、そこから引き算で「これ以上は下げられない」価格、つまり下限を出します。下限は、仕入れ値・商品化費・販売諸費用を足し、そこに最低限残したい粗利を乗せた額です。
記事冒頭の表で見ます。仕入れ75万円の定番車に、商品化・整備12万円、販売諸費用6万円がかかります。標準売価を118万円に置くと、残る粗利は25万円です。この25万円が自店の目標粗利に届くなら、その仕入れは妥当だったことになります。届かないなら、仕入れが高すぎたか、商品化に手をかけすぎたかのどちらかです。
下限は、値引き交渉で守る最後の線でもあります。お客さまから値下げを求められたとき、下限を割る額には応じない。この線をあらかじめ数字で持っておくと、その場の交渉で粗利を削りすぎる事態を防げます。値引きの線引きそのものは別の記事で扱います。
Q.上限と下限の幅に表示価格を収める
表示する価格は、1つの点ではなく幅で考えると安定します。上限は店頭相場の天井、下限は先ほど出した損益分岐の線です。この幅のどこに表示価格を置くかを、車の状態と回転の速さで決めます。
| 表示価格を上限寄りにする車 | 表示価格を下限寄りにする車 |
|---|---|
| 状態が良く、写真と現車で強みが伝わる | 状態に難があり、説明と手当てが要る |
| 相場がはっきりした人気の定番車 | 相場の読めない珍しい車・特殊な仕様 |
| 過去に短い日数で売れた実績がある | 過去に滞留した車種・不人気の色や仕様 |
| すぐ動かさなくても在庫に余裕がある | 早く現金化したい・在庫を空けたい |
状態が良く相場の堅い車は、上限寄りに置いても問い合わせは来ます。逆に、売り先の見えにくい車を上限寄りに置くと、そのまま滞留します。同じ車種でも、自店の在庫事情で置きどころは変わります。在庫が詰まっている月は下限寄りで早く回し、余裕がある月は上限寄りで粗利を取る、という調整が効きます。
Q.滞留したときの値下げを先に決める
値付けは一度で終わりません。並べてから売れない日が続いたとき、いつ・いくら下げるかを、展示する前にあらかじめ決めておきます。
たとえば、展示30日で問い合わせが基準の件数に届かなければ1段下げ、60日で2段下げ、という段階を先に紙にしておきます。日数の節目で機械的に判断すると、「もう少し待てば売れるかも」と決めかねて値ごろを逃す事態を防げます。長期在庫は金利と保管費で粗利を毎日削るため、早く動かす判断が、結局は手元に残る利益を守ります。在庫が回らないことが店の現金をどう削るかは 中古車の相場のつかみ方 でつかんだ相場感とあわせて見ると、下げる判断に迷いがなくなります。
Q.次の1台でやること
次に値札を付ける1台で、この順に手を動かします。
値付けの手順
| やること | いつ | 狙い |
|---|---|---|
| 過去落札・店頭・自店実績の3相場を調べる | 仕入れ前 | 標準売価の根拠を3点で固める |
| 標準売価から下限(損益分岐)を逆算する | 商品化前 | 守る最後の線を数字で持つ |
| 上限と下限の幅に表示価格を置く | 展示前 | 状態と回転で置きどころを決める |
| 値下げの段階(日数と下げ幅)を先に決める | 展示前 | 滞留時に迷わず動かす |
| 売れた車の実粗利と販売日数を記録する | 販売後 | 次の標準売価の精度を上げる |
売れて終わりにせず、その車が表示価格からいくら下げて何日で売れたかを記録します。標準売価と実際の成約額のずれが見えれば、次の値付けで置きどころが締まります。値付けの精度は、この記録を重ねた回数で上がっていきます。
Q.よくある質問
出典
- 2025年(暦年)の中古車登録台数(363万2179台・前年比0.8%減、小型乗用車118万970台・3%減で過去最低)― 一般社団法人 日本自動車販売協会連合会(自販連)「中古車統計データ」https://www.jada.or.jp/pages/114/(取得日 2026-06-04)
- 中古車・登録車合計の年別登録台数 ― 日本自動車販売協会連合会「統計データ(中古車登録台数)」http://www.jada.or.jp/data/year/y-u-touroku/y-u-all/(取得日 2026-06-04)
- 2025年の中古車登録・届け出が3年ぶりマイナス、取引相場は高値で推移 ― 日本経済新聞(2026年1月)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152X10V10C26A1000000/(取得日 2026-06-04)
- オークション成約車両単価(2025年10月130万5000円で過去最高、12月125万2000円・前年同月比11%増)― 中古車市場統計レポート(USS成約データを引用)https://www.kurumaerabi.co.jp/useful-details/34477/(取得日 2026-06-04)
値付けの基準と滞留時の値下げを、店の仕組みにしたいときは
標準売価の出し方や、値下げの段階の決め方で迷ったら、相談を受け付けます。自店の客層と在庫の回り方に合わせて、続けられる形を一緒に考えます。
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