Q.なぜ1つの相場だけだと査定額がぶれるのか

お客さまの車を前に、頭の中の感覚だけで金額を口にする。その日の気分や、直前に見た1台の落札価格に引っ張られて、同じような車でも担当ごと、日ごとに数万円ずれる。あなたにも覚えがあるはずです。相場が読めないというのは、勘がないことではなく、寄りかかる数字が1つしかない状態を指します。

1つの相場だけに頼ると、その数字が外れたときに丸ごと外れます。直近のオークションでたまたま高く落ちた1台を相場と思い込めば、査定額を高く出しすぎます。高く買えば、販売価格を上げるか粗利を削るしかありません。価格を上げれば売れ残り、粗利を削れば手元に利益が残らない。逆に古い感覚のまま安く出せば、お客さまは他店に流れます。査定額のぶれは、その先の在庫と粗利のぶれに変わります。

防ぐ考え方は単純です。相場を1つの点ではなく、3つの数字の重なりとしてつかむ。3つがそろえば、想定販売価格に幅ではなく1つの数字を置けます。あなたが固めるべきは査定額そのものではなく、その手前にある想定販売価格です。

Q.いまの中古車相場は高止まり ― 数字で押さえる

個別の車の相場を読む前に、市場全体がいまどちらを向いているかを押さえます。台数が絞られていると、玉の取り合いで相場は下がりにくくなります。

2025年の中古車登録台数
363万台
前年比0.8%減・3年ぶりのマイナス(出典1)
小型乗用車
118万台
前年比3%減で過去最低(出典1)

2025年の中古車登録台数は約363万台で、前年を0.8%下回り3年ぶりのマイナスでした。なかでも小型乗用車は3%減の約118万台と過去最低です(出典1)。台数が細る一方で、取引相場は高値で推移しています(出典2)。新車の供給が長く滞った影響で、状態の良い中古車に需要が集まっているためです。

これは査定の現場では、状態の良い定番車ほど仕入れ替えの値が下がりにくいことを意味します。安く買おうと査定額を抑えすぎれば、その車は他店へ流れます。市場の向きを押さえたうえで、次に個別の車の相場をつかみます。

Q.3つの相場を重ねて想定販売価格を固める

相場のつかみ方は、性質の違う3つの数字を重ねることです。冒頭の表に整理したとおり、それぞれ見る場所と役割が違います。

過去の落札相場 ― 仕入れ替えの目安と動き

同じ車種・年式・走行・グレードが、直近の業者オークションでいくらで成約したか。会場が出す相場データで確認します。これは仕入れ替え、つまり市場でいまその車にいくら必要かの目安です。1台の高値や安値ではなく、直近数か月の平均と上下の動きで見ます。

いまの店頭相場 ― 想定販売価格の上限

同じ条件の車が、近隣や全国の販売店にいくらの売価で並んでいるか。これが自店の想定販売価格の上限です。並んでいる価格より高く付ければ売れにくく、安く付ければ売れますが粗利が薄くなります。自店の立地や品ぞろえと照らして、現実に勝負できる売価の帯を読みます。

自店の販売実績 ― 最も当てになる数字

過去に同じような車を、自店が実際にいくらで何日で売ったか。これが3つのうち最も当てになります。立地と客層という、よそでは置き換えられない条件を反映しているからです。落札相場と店頭相場が外から見た数字なのに対し、これだけは自店の数字です。だからこそ、次に挙げる記録が効いてきます。

3つの重ね方:店頭相場で想定販売価格の上限を引き、自店の販売実績でその上限のなかの現実的な1点を決め、落札相場で仕入れ替えがその価格に見合うかを確かめます。3つがそろうと、想定販売価格を幅ではなく1つの数字で置けます。

Q.年式と走行距離で相場を読む

同じ車種でも、年式と走行距離で相場は大きく動きます。ここに業界共通の物差しがあります。中古自動車査定基準では、標準の走行を月1,000km、おおむね年1万kmとして、これより少なければ加点、多ければ減点という考え方をとります。査定の基準価格は、新車価格の93%以内に置かれます(出典3)。

つまり、初年度登録からの月数に1,000をかけた距離が、その車の標準の走行です。5年落ちなら6万km前後が目安になります。この目安に対して走行が少ない車は相場より高く、過走行の車は安く出る、という方向で読みます。実際の落札相場・店頭相場も、この標準値からの距離で値が分かれていきます。

年式に対する走行距離相場での出方査定での向き合い方
標準より少ない(年1万km未満)相場より高く出やすい強みとして見込む。ただし買いすぎに注意
標準どおり相場の中心帯3つの相場の重なりで素直に置く
過走行(年1万km超が続く)相場より安く出やすい説明と手当ての手間を見込み、抑えめに

走行距離のほかに、修復歴の有無や装備、色も相場を動かします。なかでも修復歴は再販価格と次のお客さまへの説明に直結するため、査定の最初に確認します。修復歴の定義は中古自動車査定基準が業界の共通土台です(出典3)。

Q.想定販売価格から査定額を逆算する

3つの相場で想定販売価格が1つに固まれば、査定額はそこから引き算で出ます。想定販売価格を起点に、商品化や整備の費用、諸経費、確保したい粗利を順に引く。残った額が、その車に出してよい査定額の上限です。

項目考え方想定販売130万円の例
想定販売価格3つの相場を重ねて固めた数字1,300,000円
− 商品化・整備費点検・消耗品・クリーニング・車検整備など120,000円
− 諸経費名義変更・手続き・保管など30,000円
− 目標粗利1台で確保したい利益(自店の基準)150,000円
= 査定額の上限これを超えて買うと粗利を削る1,000,000円

金額は組み立て方を示す一例です。手数料・整備費・目標粗利は自店の実際の額に直してください。お客さまとの交渉でこの上限を超えそうになったら、惜しくても引く。査定額のぶれが大きい店ほど、この上限を頭の中だけで持って、その場の流れで動かしてしまっています。先に想定販売価格を固めてあるから、上限が動かないのです。

起点を間違えない:逆算の起点は、希望や感覚ではなく3つの相場で固めた想定販売価格です。相場より高い希望価格を起点にすると、査定額の上限も連動して上がり、高く買って売れ残るという結果につながります。

Q.相場の薄い車をどう扱うか

3つの相場がきれいにそろうのは、台数の多い定番車です。珍しい車種、特殊な仕様、過走行や旧年式の車は、落札相場も店頭相場も件数が少なく、想定販売価格の根拠が弱くなります。根拠が弱いまま高い査定額を出すと、高く買って長く残るおそれがあります。

こうした車は、相場の数字だけで決めず、もう一段の線を引きます。判断の軸は、売り先が具体的に浮かぶか、過去に自店で似た車を売れたかの2つです。

査定額を素直に出してよい車抑えるか見送る車
3つの相場がそろう定番車落札・店頭の件数が少なく相場が読めない
自店の客層に売り先が浮かぶ誰に売るか具体的に想像できない
過去に自店で短い日数で売れた車種過去に滞留した車種・不人気の色や仕様

右側の車は、安く査定できればよいのではありません。売れずに残れば、安く買っても在庫として現金を縛り続けます。仕入れた車が回らないときの数字の見方は 中古車の在庫が回らない店の数字の見方 で扱っています。相場の線引きと在庫の回転は、同じ問題の表と裏です。

Q.毎回ずれを縮める記録の付け方

3つの相場のうち、自店の販売実績だけは記録しなければ手元に残りません。そして、それが最も当てになる数字です。査定がその場限りで終わると、想定販売価格はいつまでも勘のままで、ぶれも小さくなりません。

記録は難しくありません。査定した車について、想定販売価格・実際の査定額・実際の売価・販売日数の4つを残すだけです。想定と実績のずれが見えれば、次に同じような車を査定するとき、想定販売価格の置き方が締まります。

  • 査定時の想定販売価格 ― 3つの相場から固めた数字
  • 実際に出した査定額 ― 逆算した上限と、交渉でいくらになったか
  • 実際の売価 ― 何円で売れたか
  • 販売日数 ― 仕入れから売れるまで何日かかったか

この4つを車種ごとにためていくと、自店だけの相場表ができます。よその相場データが当てにならない珍しい車でも、自店の過去の実績が1件でもあれば、それが何より確かな手がかりになります。査定の精度は、この記録を重ねた回数で上がっていきます。査定額を毎回近づけたいなら、基準づくりは 買取査定のばらつきを仕組みで抑える も合わせて読んでください。

Q.次の査定でやること

次にお客さまの車を査定する前に、この順で準備します。

次の査定の手順

やることいつ狙い
過去の落札相場と店頭相場を引く査定前外から見た相場の帯をつかむ
自店の販売実績で現実的な1点を決める査定前想定販売価格を幅でなく1つに固める
年式に対する走行距離を標準値と照らす現車確認標準より少ないか過走行かで高安を読む
想定販売価格から査定額の上限を逆算する提示前交渉で上限を超えないようにする
想定・査定額・売価・販売日数を記録する販売後次の想定販売価格の精度を上げる

査定して終わりにせず、その車が実際にいくらで何日で売れたかまで残します。想定と実績のずれが見えれば、相場のつかみ方が回を追うごとに締まります。相場は読めるか読めないかではなく、3つの数字をそろえて記録を重ねるかどうかで決まります。

Q.よくある質問

中古車の相場はどうやってつかめばいいですか
1つの数字に頼らず、3つを重ねます。直近の業者オークションでの落札相場、いまの店頭で同条件の車が並ぶ売価、自店が過去に同じような車をいくらで何日で売ったかの3つです。3つがそろうと、想定販売価格に幅ではなく1つの数字を置けて、そこから査定額を逆算できます。
走行距離が相場に与える影響はどう見ればいいですか
中古自動車査定基準では、標準の走行を月1,000km(おおむね年1万km)として、これより少なければ加点、多ければ減点という考え方をとります。基準価格は新車価格の93%以内に置かれます。年式に対して走行が少ない車は相場より高く、過走行の車は安く出る、という方向で読みます。
相場の読めない珍しい車はどう査定すればいいですか
想定販売価格の根拠が弱いまま高い査定額を出すと、高く買って売れ残るおそれがあります。相場の薄い車は、売り先が具体的に浮かぶか、過去に自店で似た車を売れたかで線を引きます。判断がつかないなら、査定額を抑えるか、見送るのが安全です。慣れないうちは相場のはっきりした定番車に絞ります。

出典

  1. 2025年の中古車登録台数(363万2179台・前年比0.8%減・3年ぶりマイナス/小型乗用車118万970台・3%減で過去最低)― 一般社団法人日本自動車販売協会連合会(自販連)の集計に基づく報道、日本経済新聞「2025年中古車登録・届け出、3年ぶりマイナス 取引相場は高値で推移」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152X10V10C26A1000000/(取得日 2026-06-04)
  2. 中古車登録台数・取引相場の月次データ ― 一般社団法人日本自動車販売協会連合会(自販連)公式サイトhttps://www.jada.or.jp/(取得日 2026-06-04)
  3. 中古自動車査定基準(標準走行=月1,000km・推定走行キロの算定/基本価格は新車価格の93%以内/修復歴の定義)― 一般財団法人日本自動車査定協会(JAAI)「中古車査定基準」http://www.jaai.or.jp/images/jissiten/sateikijun240327/kijun-1.pdf(取得日 2026-06-04)
市場全体の台数・相場は時期で動きます。本記事の数字は取得日時点のもので、最新値は各出典の公式発表で確認してください。査定基準の加減点・標準値は会場や運用で扱いが異なる場合があるため、利用する基準表を必ず手元に置いてください。
編集部より

相場のつかみ方と査定記録を、店の仕組みにしたいときは

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