Q.回らない在庫が、なぜ店の現金を削るのか

仕入れたときは売れると思った一台が、展示場で60日を超えて動かない。あなたの店に、いまこの状態の車が何台あるか、すぐ答えられるでしょうか。台数が言えないなら、削られている現金の大きさも見えていません。

中古車の在庫は、仕入れ代金がそのまま現金として寝ている状態です。1台100万円で仕入れた車が3か月売れずに残れば、100万円分の現金が3か月使えないまま置き場をふさぎます。これに在庫資金の金利、駐車スペースの費用、そして時間とともに進む相場の下落が重なります。中古車は新しい型式が出るたび、同じ車でも相場が下がっていきます。持っているだけで、買ったときより価値が落ちる商品です。

積み上がるのは、在庫資金の金利、置き場の費用、相場の下落、売り場を占有する機会の損失です。たとえば仕入れ値100万円の車を金利3%の資金で持つと、金利だけで月およそ2,500円。これに1台分の置き場の費用が毎月乗り、相場の下落も加わります。1台では小さく見えても、止まった在庫の台数ぶんだけ毎月かかり続けます。

中古車の登録台数(市場の規模感)
約648万台
2025年・暦年、自販連・全軽自協発表。前年比ほぼ横ばい(出典2)

市場全体の台数はここ数年ほぼ横ばいで、需要が大きく伸びて売れ残りを吸収してくれる地合いではありません。だからこそ、回らない在庫を放置するほど損が静かに増えます。値下げをためらう気持ちは分かりますが、本当の損は「下げて売ること」ではなく「下げずに持ち続けること」のほうに溜まっていきます。

Q.自店の在庫回転日数を出す

最初にやることは、感覚を数字に置き換えることです。「最近、車が動かない気がする」では手の打ちようがありません。店全体の回転と、1台ごとの滞留を、別々に見ます。

店全体 ― 在庫回転日数

店全体の回転は、平均在庫台数 ÷ 月間販売台数 × 30 で出します。常時30台を抱え、月に10台売る店なら、30 ÷ 10 × 30 で90日。いま店にある在庫を売り切るのに平均3か月かかる、という意味です。年間で見れば、年120台 ÷ 平均30台で4回転になります。回転率と回転日数は、在庫が売上原価の何倍動いたかを表す一般の会計指標で、計算の考え方は中古車でも同じです(出典1)。

1台ごと ― 仕入日からの経過日数

店全体の平均だけでは、どの車が足を引っ張っているかは見えません。在庫一覧に「仕入日」と「店頭に並べた日」を入れ、今日との差で1台ごとの経過日数を出します。平均が90日でも、半分が30日で売れ、残りが180日止まっている店と、全車が均等に90日の店では、打つ手がまったく違います。前者は、その止まっている半分にだけ手を入れればいい、ということです。

先に揃えること:在庫管理表に「仕入日」「店頭掲載日」「仕入価格」「現在の売価」「経過日数」の5列があれば、この記事の判断はすべて自店の表の上でできます。紙でもExcelでも構いません。まずこの5列を埋めるところから始めます。

Q.どこからを「滞留」とみなすか ― 線の引き方

「何日で滞留か」に全国共通の正解はありません。扱う車種、価格帯、立地で適正は変わります。軽の実用車と高年式の輸入車では、売れるまでの時間がそもそも違います。だから目安は外から借りず、自店の実績から引きます。

過去半年で売れた車が、仕入れから店頭を離れるまで平均何日だったかを出してください。それが自店の標準です。標準を超えて止まっている車が、手を打つべき対象です。価格帯や車種でばらつくなら、表のように区切って線を引きます。

区分標準(売れるまでの平均例)注意ライン滞留ライン
軽・小型の実用車約45日60日90日
普通車・ミニバン約60日75日120日
高額・趣味性の高い車約90日120日180日

表の日数は線の引き方を示す一例です。数字そのものは自店の実績で置き換えてください。大事なのは、注意ラインで「なぜ止まっているか」を確かめ、滞留ラインまでに必ず手を打つ、という運用をルールにすることです。線を引いておけば、判断が担当者の気分に振られません。

Q.滞留した一台をどう動かすか

滞留ラインを超えた車には、取れる手が4つあります。順に検討し、1台ごとにどれを当てるか決めます。

手1. 売価を相場に合わせ直す

止まっている車の多くは、相場より高いまま値札が据え置かれています。仕入れたときの希望価格にしがみつかず、いまの相場で同じ条件の車がいくらで出ているかを調べ、そこへ寄せます。下げ幅の損は、その後に積み上がる金利・置き場・相場下落の合計と比べて決めます。1か月寝かせ続ける費用より下げ幅が小さいなら、下げて売り切るほうが得です。

手2. オークションへ戻す(見切り)

自店の客層にどうしても合わない車は、業者オークションへ出して現金に戻すほうが早いことがあります。多少の損切りでも、寝ていた現金が動き、次の仕入れに回せます。「買ったときより安く手放す」ことへの抵抗が、判断を遅らせる最大の原因です。仕入れ値ではなく、いまの相場と回転を基準に決めます。

手3. 売り場や見せ方を変える

掲載写真が暗い、車両情報が薄い、価格だけで横並び比較されている。こうした理由で問い合わせが来ていない車は、写真の撮り直しや説明の追記で動くことがあります。ただし、これは相場が合っている車に効く手です。価格がずれたまま見せ方だけ直しても動きません。

手4. 仕入れを一旦止める

滞留が増えている時期に、同じ調子で仕入れを続けると在庫はさらに膨らみます。回転が標準に戻るまで、その車種・価格帯の仕入れを一時的に絞る判断も必要です。

よくある遅れの原因:「もう少し待てば希望価格で売れるかもしれない」。この期待が、損を最も大きくします。待つ間も金利と置き場の費用は毎日かかり、相場は下がり続けます。判断の基準を「希望価格に戻るか」ではなく「持ち続ける費用が下げ幅を超えていないか」に変えてください。

Q.回らない原因は仕入れの段階にある

滞留車を動かすのは対症療法です。同じことを繰り返さないためには、なぜその車が回らなかったかを仕入れまで遡ります。相場より高く落札した、自店の客層に合わない車を仕入れた、需要の薄い色や仕様だった。回らない車の多くは、店頭に並べる前から回りにくさが決まっています。

滞留ラインを超えた車を月末に並べ、「仕入れの時点で避けられたか」を1台ずつ振り返ってください。同じ失敗が2台3台と重なるなら、仕入れの基準そのものに穴があります。オークションでの上限価格の決め方と、仕入れていい車・避ける車の線引きは オートオークションでの仕入れ ― 上限価格の決め方と避ける車 でくわしく扱っています。買い取った車の査定額が人によってばらつくと、ここでも高値掴みが起きます。査定を揃える手順は 買取査定のばらつきを仕組みで抑える を参照してください。

Q.今月やること

読んで終わりにせず、自店の在庫表の上で手を動かします。順番はこのとおりです。

今月の手順

やることいつ判断の基準
在庫一覧に「仕入日・経過日数・仕入価格・売価」を入れる今週5列がそろえば判断はすべて表の上でできる
過去半年で売れた車の平均日数を出し、自店の標準にする今週区分ごとに分けると線が引きやすい
滞留ラインを超えた車に赤で印を付ける今月前半標準の2倍前後を目安に線を引く
印の付いた車を1台ずつ、手1〜4のどれで動かすか決める今月中持ち続ける費用と下げ幅を並べて比べる
滞留車を仕入れの時点で避けられたか振り返る月末同じ失敗が重なる車種・価格帯は仕入れを絞る

翌月、同じ手順をもう一度回します。標準日数と滞留台数を毎月記録していけば、回転が良くなっているか、仕入れの見直しが効いているかが数字で分かります。感覚で「最近どうも動かない」と言っていた頃には戻りません。

Q.よくある質問

在庫回転日数は何日くらいを目安にすればいいですか
全国共通の公式な目安はありません。扱う車種・価格帯・立地で適正は変わるため、自店の過去の販売実績から「売れた車が仕入れから店頭を離れるまで平均何日だったか」を出し、それを基準線にします。基準より長く止まっている車を先に手を打つ、という使い方が現実的です。
値下げすると損が出ます。それでも下げるべきですか
在庫を持ち続けること自体に費用がかかります。仕入れ代金が現金として寝るほか、置き場、在庫資金の金利、相場の下落、売り場を占有する機会の損失が日々積み上がります。下げて売る損と、持ち続けて積み上がる費用を並べ、後者が前者を超える前に動かすのが判断の軸です。
在庫が回らない原因はどこにありますか
多くは販売側ではなく仕入れの段階で決まっています。相場より高く落札した車、自店の客層に合わない車、需要の薄い色や仕様の車は、店頭に並べた時点で回りにくくなります。回転を上げるには、売り場の工夫より先に仕入れの基準を見直すほうが効きます。

出典

  1. 在庫回転率・在庫回転日数の計算(売上原価 ÷ 平均在庫、365 ÷ 回転率)― 弥生株式会社「在庫回転率とは」https://www.yayoi-kk.co.jp/kaikei/oyakudachi/zaikokaitenritsu/(取得日 2026-06-02)
  2. 中古車の登録・販売台数(2025年・暦年、約648万台、前年比ほぼ横ばい)― 日本自動車販売協会連合会(自販連)統計、軽自動車は全国軽自動車協会連合会発表。最新の月次は自販連 統計データ https://www.jada.or.jp/pages/114/(取得日 2026-06-02)
本記事の数値のうち、計算式は一般の会計指標、市場台数は業界団体の発表値(年次・主体を明記)に基づきます。在庫日数の「目安」に公的な基準値は存在せず、本文の日数は線の引き方を示す例です。自店の実績で置き換えてください。
編集部より

在庫の数字を毎月そろえる仕組みを、店に置きたいときは

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