Q.査定がその場限りで終わると、何を失うか
査定して、金額を伝えて、決まれば仕入れ、決まらなければそれで終わり。あなたの店でも、査定が1台ずつ切れていませんか。その車の記憶は、伝票が片付くころには頭から消えています。1年で何百台も見ているのに、経験が店に積み上がらないのは、見た瞬間に消えているからです。
中古車の登録台数は2025年で約363万台、前年比0.8%減と3年ぶりに前年を割り込みました(出典3)。台数が伸びない局面では、1台ごとの査定の精度がそのまま粗利の差になります。同じ車種を3か月前にいくらで査定し、それが決まったのか断られたのか。残っていなければ、次の提示額はまた勘から始まります。
失っているのは記録そのものではなく、その記録が次の判断に効く分の利益です。査定額が高すぎれば粗利が薄くなり、低すぎればお客さまに断られて1台逃します。どちらに振れたかは、後で見返せる形で残してはじめて分かります。査定をその場で終わらせない、それだけで提示額は経験に裏打ちされていきます。
Q.古物台帳は付けている ― でも商売には足りない
中古車を買い取って売る以上、あなたの店は古物商の許可を持ち、古物台帳を付けているはずです。ここで先に押さえたいのは、その台帳は商売の記録ではない、という点です。
古物営業法に基づく記録義務では、取引年月日・古物の品目と数量・特徴・相手方の住所氏名や確認の方法などを残します。自動車は登録制度で相手方を特定できるため、相手方の住所氏名などの記載が一部免除される扱いもあります(出典1)。そして帳簿は、最終の記載をした日から3年間、営業所に備え付けて保存する義務があります(出典2)。盗品の流通を防ぐための記録なので、いくらで査定したか・なぜその額にしたか・売れたのかという、商売の判断にあたる情報は対象に入りません。
Q.査定記録に残す最低限の4項目
残す項目が多すぎると続きません。次の判断に効くものだけに絞ります。最低限はこの4つです。
| 残す項目 | 中身 | これが次に効く理由 |
|---|---|---|
| ① 車の素性 | 車種・年式・走行距離・グレード・色・修復歴の有無 | 同条件の車を後で引き当てて比べられる |
| ② 見積額と根拠 | 提示した金額/参考にした相場(落札相場・店頭相場) | 提示額が高すぎ・低すぎを後で検証できる |
| ③ 成約可否 | 決まった/断られた(断られた額の見当があれば併記) | いくらなら決まる線が見えてくる |
| ④ 販売実績 | 成約車の想定販売価格/実際の販売額/販売日数 | 査定から出口までの粗利と回転が分かる |
①の車の素性は、査定の土台です。車格や状態の評価は中古自動車査定基準が業界の共通の物差しになっており、外装・内装・骨格・走行距離などの項目で見ます(出典4)。記録にも同じ目線の項目を置くと、後から見返したとき条件をそろえて比べられます。②の根拠を残すのが地味に効きます。なぜその額にしたかが残っていれば、外れたときに「相場の見方が甘かった」のか「車の状態の読みが甘かった」のかを切り分けられます。
Q.断られた査定こそ残す
多くの店が、成約した査定だけを記録に残します。決まらなかった査定は、伝票にも残らず消えていきます。ですが、次の提示額の精度を上げるのは、むしろ断られた査定のほうです。
断られたということは、自店の提示額がお客さまの期待や他店の額に届かなかったということです。同じ車種で「いくらまで出せば決まったか」が積み上がると、次に同じ車を査定するときの上限の見当がつきます。逆に、簡単に決まった査定ばかりなら、提示額が高すぎて粗利を取りこぼしている疑いがあります。成約と非成約の両方を残してはじめて、提示額の当たり外れが見えます。
Q.その場で1分、続けられる残し方
記録は、完璧さより継続が価値です。査定が終わった直後に1分で書ける形にしておかないと、後でまとめて入力しようとして結局たまり、続きません。
固定の入力欄を1つ用意する
スプレッドシートでも在庫管理システムでも、先ほどの4項目を列にした固定の入力欄を1つ作ります。査定が終わったその場で、決まったか断られたかまで含めて埋めます。フォーマットを毎回考えなくていい状態にしておくのが、続けるための前提です。担当者ごとにバラバラの紙やメモに書くと、後で1つにまとめられず死蔵します。
入力をその日の動線に組み込む
査定→記録→次の業務、と動線に記録を挟みます。査定票を片付ける前に1行入れる、というように、既にある手順の中に置くと忘れにくくなります。月に一度、たとえば月初に前月分を見返す時間を決めておくと、残した記録が判断に戻る回路ができます。残すだけで見返さなければ、ただのデータの墓場になります。
Q.記録を仕入れ・値付け・教育に戻す
残した査定記録は、見返してはじめて意味を持ちます。月に一度の振り返りで、次の3つに戻していきます。
- 仕入れ ― どの車種が、いくらで査定して、何日で売れたか。回転の速い車種と滞留した車種が見えると、オークションでの落札の目安が締まります。仕入れの上限価格の出し方は オートオークションでの仕入れ で扱っています。
- 値付け ― 想定販売価格と実際の販売額のずれを見ます。想定より安く手放した車が多ければ、査定段階の相場の読みか、店頭での値付けに見直す点があります。
- 教育 ― 担当者ごとに、提示額の傾向と成約後の粗利を並べます。誰が高く付けがちで、誰が安く付けがちかが数字で見えると、勘の差を埋める材料になります。
この振り返りは、担当者の頭の中にあった査定の勘を、店の共有の物差しに変えていく作業です。査定額のばらつきを誰がやっても近い金額に寄せる仕組みは 買取査定のばらつきを仕組みで抑える で詳しく扱っています。記録はその仕組みを回す燃料になります。
Q.今週から始める手順
大がかりな仕組みは要りません。今週、この順で始められます。
査定記録を始める手順
| やること | いつ | 狙い |
|---|---|---|
| 4項目を列にした入力欄を1つ作る | 今日 | 毎回フォーマットを考えなくする |
| 次の査定からその場で1行埋める | 今週 | 後回しにせず動線に組み込む |
| 断られた査定も同じ欄に残す | 毎回 | 提示額の上限の見当をためる |
| 成約車の販売額と日数を後で追記する | 販売後 | 査定から出口までの粗利を見る |
| 月初に前月分を見返す時間を決める | 毎月 | 記録を仕入れ・値付け・教育に戻す |
はじめは項目が埋まらない行があっても構いません。続けるうちに、同じ車種の査定が並び、いくらなら決まるかの線が見えてきます。査定の精度は、この記録を重ねた回数で上がっていきます。1台ずつ切れていた査定が、つながった経験に変わります。
Q.よくある質問
出典
- 古物商の取引の記録義務・記載事項(自動車の相手方確認の一部免除を含む)― 警察庁/古物営業法 第16条(e-Gov 法令検索「古物営業法」)https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000108(取得日 2026-03-24)
- 帳簿等の保存期間(最終記載日から3年間)― 古物営業法施行規則 第18条(e-Gov 法令検索「古物営業法施行規則」)https://laws.e-gov.go.jp/law/407M50000010010(取得日 2026-03-24)
- 2025年の中古車登録台数(約363万台・前年比0.8%減で3年ぶりの前年割れ/自販連集計)― 日本経済新聞「中古車登録・届け出、3年ぶりマイナス」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152X10V10C26A1000000/(取得日 2026-03-24)
- 中古自動車査定の評価項目(外装・内装・骨格・走行距離など/基準価格+減点法)― 一般財団法人日本自動車査定協会(JAAI)「査定とは」http://www.jaai.or.jp/sateitowa.html(取得日 2026-03-24)
査定の記録を、店の経験として積み上げたいときは
残す項目の絞り方や、記録を仕入れと値付けに戻す回し方で迷ったら、相談を受け付けます。自店の規模と人数に合わせて、続けられる形を一緒に考えます。
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