Q.在庫が動かない店で、現金がどう寝るか
展示場に並んだ車のうち、何台が3か月以上そこにあるか。すぐに数えられないなら、在庫が現金を縛り始めているサインです。あなたの店でも、入庫日を1台ずつ追えていない車が何台かあるはずです。動かない在庫は、仕入れに使った現金をそのまま固定したまま、保管場所と金利の負担だけを積み上げていきます。
やっかいなのは、滞留車ほど時間とともに値が落ちることです。年式は古くなり、モデルは新しくなり、同じ車の店頭相場は下がっていきます。仕入れたときに付けた値札のまま置いておくと、相場との差が開いて、ますます売りにくくなります。動かないから値を下げ、下げても遅いから粗利が消える。この流れに入る前に、回転という1つの軸で在庫を見直します。
ここで決めるのは1つです。回転を上げるために、値付け・仕入れ・展示・処分のどの打ち手から手を付けるか。やみくもに全部に手を出すと現場が混乱します。自店の数字を見てから、効く順に1つずつ動かします。
Q.まず出す2つの数字 ― 在庫回転率と在庫日数
打ち手を選ぶ前に、自店の現在地を数字で押さえます。出すのは2つだけです。難しい会計の式は要りません。台数で代用すれば、月末の在庫表と販売台数だけで出せます。
在庫回転率 ― 1年で何回入れ替わったか
在庫回転率は、本来は売上原価を平均在庫高で割って出します(出典4)。中古車店では台数に置き換えても実務に足ります。年間販売台数を平均在庫台数で割れば、在庫が1年で何回入れ替わったかが出ます。年間120台を売り、平均在庫が20台なら、回転率は6回です。この数字が小さいほど、同じ売上のために多くの車を抱えていることになります。
平均在庫日数 ― 1台が何日そこにいるか
社長の肌感に近いのは在庫日数です。平均在庫台数を年間販売台数で割り、365日を掛けます。平均在庫20台・年間120台なら、20÷120×365で約61日。1台が売れるまで平均2か月そこにいる、という意味です。回転率より、現場の「動いていない感じ」と合わせやすい数字です。
Q.回転と粗利を交差比率で一緒に見る
回転を上げる、と聞くと値下げを思い浮かべます。ただ、安く売って台数だけ回しても、手元の利益は増えません。回転と粗利は、片方だけ見ると判断を誤ります。2つを同時に見る物差しが交差比率です。
交差比率は、在庫回転率に粗利益率を掛けて出します。小売の在庫管理で、その在庫がどれだけ利益を生んでいるかを測る指標として使われ、目安は200%以上とされています(出典4)。回転だけ高くても粗利が薄ければ数字は伸びず、粗利が厚くても回転が遅ければやはり伸びません。回転と粗利の両取りができている車ほど、交差比率が高くなります。
| パターン | 在庫回転率 | 粗利益率 | 交差比率 |
|---|---|---|---|
| 回転は速いが安売り | 10回 | 10% | 100% |
| 粗利は厚いが滞留 | 3回 | 20% | 60% |
| 回転と粗利の両取り | 8回 | 18% | 144% |
狙うのは下の段です。値下げで回転だけ上げる打ち手は、交差比率を下げかねません。値付けの引き下げは最後に回し、先に展示と仕入れで在庫日数を縮めます。粗利を守ったまま回転が上がれば、交差比率は素直に上がります。値下げは、それでも動かない車にだけ使う最後の手です。
Q.在庫日数で車を3つに分ける
1台ごとの経過日数が出たら、3つの帯に分けます。帯ごとに打ち手が変わるため、まず仕分けてから動きます。区切りは目安なので、自店の標準的な販売日数に合わせて調整します。
| 在庫日数の帯 | 状態 | 取る打ち手 |
|---|---|---|
| 0〜60日 | 標準の範囲。様子を見る | 展示と写真を整えて待つ |
| 61〜90日 | 動きが鈍い。要注意 | 展示の見直し・問い合わせ対応の点検 |
| 91日以上 | 滞留。現金を縛っている | 値付けの見直し → 処分の判断 |
多くの店で見落とされるのは、61〜90日の帯です。まだ売れる気がして手を打たないうちに、91日を超えて滞留に落ちます。この帯に入った時点で展示の手当てに動けば、値下げに頼らず売り切れる車が増えます。91日を超えた車は、在庫として現金を縛り続けるので、処分を含めて出口を決めます。滞留した在庫がどう現金を削るかは、中古車の在庫が回らない店の数字の見方 で在庫日数の出し方とあわせて扱っています。
Q.どの打ち手から手を付けるか
帯ごとの仕分けができたら、効く順に1つずつ動かします。順番を間違えると、入口を締めないまま出口だけ広げて、また新しい滞留車が積み上がります。入口(仕入れ)と出口(処分)の両方を締めるのが効きます。
1. 滞留車の処分から始める(出口)
91日を超えた車は、これ以上置いても値が下がるだけです。自店で売り切る期限を決め、超えたら業者オークションへ出すか、専門店に流して現金に換えます。薄い粗利でも、縛られていた現金を引き出せば、次の回る車を仕入れる元手になります。処分で止まった現金を動かし、回る車に積み替えます。
2. 展示と写真を手当てする
61〜90日の車は、車そのものより見せ方で止まっていることがあります。掲載写真が暗い、台数が少ない、装備の記載が薄い。展示位置が奥で目に入らない。ここを直すだけで反応が変わる車は珍しくありません。費用がほぼかからず粗利も守れるため、値下げの前に必ず通します。展示・在庫の見せ方は店側の運用で差がつく部分です。
3. 値付けを見直す
展示を直しても動かない車は、店頭相場との差を確かめます。同じ車種・年式・走行の車が、いまいくらで並んでいるか。自店の値札がそこから外れていれば、相場に寄せます。値下げは粗利を削るので、相場とのずれが明確な車に絞って使います。
4. 仕入れを選び直す(入口)
最後に入口です。そもそも回らない車を掴まなければ、滞留は起きません。過去に自店で短い日数で売れた車種・年式・色を記録し、それに近い車を仕入れます。回転は仕入れた瞬間に大きく決まります。仕入れの線引きは オートオークションでの仕入れ で、上限価格の決め方と避ける車の見極めとして扱っています。
Q.仕入れ単価が上がる相場での守り方
いまは仕入れが高い局面です。2025年の中古車登録・届け出台数は前年比0.2%減の648万7868台で、3年ぶりのマイナスでした(出典1)。一方で取引相場は高値が続き、12月の成約車両単価は前年同月比11%増の125万2000円と、4か月連続で前年同月を上回りました(出典1)。コロナ禍で新車が落ち込んだ年の車が「5年落ち」として不足し、玉が足りないことが背景にあります。
高く仕入れた車を高い値札のまま長く置くと、滞留の損失も大きくなります。仕入れ単価が上がる局面ほど、在庫日数を短く保つことが現金を守ります。回転の速い定番車に仕入れを寄せ、相場が読みにくい車は見送る。高値で掴んだ分は、早く回して取り返す。相場が動くときこそ、入口の選び方と在庫日数の管理が効いてきます。
Q.今週からやること
順番に手を付けます。最初の週は数字を出すだけで十分です。
在庫回転を上げる手順
| やること | いつ | 狙い |
|---|---|---|
| 在庫回転率と平均在庫日数を出す | 今週 | 自店の現在地を数字で押さえる |
| 1台ごとに入庫からの経過日数を並べる | 今週 | 足を引っ張る滞留車を特定する |
| 91日超の車に処分期限を決める | 2週目 | 縛られた現金を動かす(出口) |
| 61〜90日の車の写真と展示を直す | 2週目 | 値下げせず反応を上げる |
| 売れた車の車種・日数を記録に残す | 毎月 | 次の仕入れの選び方を締める(入口) |
毎月、売れた車が何日で売れたかを記録に残します。短い日数で売れた車種と、長く滞留した車種が見えてくれば、仕入れで掴む車が変わります。在庫回転の改善は、月ごとの数字を重ねた分だけ効いていきます。
Q.よくある質問
出典
- 2025年の中古車登録・届け出台数(前年比0.2%減 648万7868台・3年ぶりマイナス/自販連 中古車登録0.8%減 363万2179台/12月成約車両単価 前年同月比11%増 125万2000円)― 日本経済新聞「2025年中古車登録・届け出、3年ぶりマイナス 取引相場は高値で推移」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152X10V10C26A1000000/(取得日 2026-06-04)
- 中古車登録台数の統計・出典元 ― 日本自動車販売協会連合会(自販連)「中古車統計データ」https://www.jada.or.jp/pages/114/(取得日 2026-06-04)
- 自動車統計データブック(中古車登録・台数の基礎統計)― 自販連「2025 自動車統計データブック(第43集)」https://www.jada.or.jp/files/libs/6313/202511101809574440.pdf(取得日 2026-06-04)
- 在庫回転率の計算式(売上原価÷平均在庫高)・交差比率(在庫回転率×粗利益率・目安200%以上)― 東芝テック「交差比率とは?在庫管理における計算式や目安」https://www.toshibatec.co.jp/datasolution/column/20221201_02.html(取得日 2026-06-04)
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