Q.なぜ在庫が多すぎると現金が苦しくなるか

展示場は車で埋まっているのに、月末になると資金繰りに追われる。仕入れたいタイミングで現金が手元になく、いい玉を見送る。あなたの店でも、こういう月が増えていないでしょうか。在庫が多いこと自体は悪ではありません。問題は、その台数が自店の販売ペースに合っているかどうかです。

中古車は1台あたりの仕入れ額が大きく、在庫がそのまま寝た現金になります。借入で仕入れていれば、売れるまで金利が乗り続けます。展示の場所代、保険、洗車や移動の手間も、台数に比例して増えます。売れて初めて現金に戻る車を多く抱えるほど、次の仕入れに回せる資金が細る、という構図です。

だぶついた在庫の多くは、よく動く定番車ではなく、長く動かない滞留車です。この滞留車が現金を縛り、回転を鈍らせ、値下げ処分で粗利まで削ります。何台持つかを決めるとは、つまり「何台までなら自店の販売ペースで健全に回せるか」を数字で線引きすることです。

Q.適正在庫台数を逆算する

適正な台数に、業界共通の正解はありません。月販30台の店と月販8台の店では、持つべき台数がまったく違うからです。出し方は単純で、自店の販売ペースと回す速さの2つから逆算します。

計算式は、月間の平均販売台数に目標とする在庫月数を掛けるだけです。記事冒頭の表のとおり、月販10台を平均1.5か月で回したいなら、適正在庫は10台×1.5か月で15台になります。月販が同じでも、2か月で回す店なら20台、1か月で回す店なら10台です。回す速さを先に決めれば、持つべき台数は自動で決まります。

月販台数は実績の平均で:その月の勢いや希望の数字ではなく、直近6〜12か月の平均販売台数を使います。季節で売れ行きが動く店なら、繁忙期と閑散期をならした平均にすると、台数の上限がぶれません。

Q.目標在庫月数を何か月に置くか

逆算のもう一方の数字が目標在庫月数です。これは「仕入れた車を、平均で何か月のうちに売り切るか」という回す速さの目標です。ここを何か月に置くかで、適正台数は大きく変わります。

在庫管理では、目標の在庫月数を先に決め、そこから適正な在庫量を逆算する考え方があります。月末の在庫を1.5か月分に置くのは、その目安の一例です。中古車も、まずは1.5〜2か月を目安に置き、自店の現金繰りと売れ行きを見て詰めます。短く置けば現金は楽になりますが、在庫の幅が痩せて選びにくい店になります。長く置けば品ぞろえは増えますが、滞留と金利の負担が重くなります。下の幅で自店の置きどころを決めます。

目標在庫月数月販10台での適正在庫向き・注意
1.0か月(速く回す)10台現金は楽。品ぞろえが薄く、来店時の選択肢が減る
1.5か月(標準の目安)15台現金と品ぞろえの釣り合いを取りやすい置きどころ
2.0か月(幅を持たせる)20台品ぞろえは増えるが、滞留・金利の負担が重くなる

立地と客層でも適した速さは変わります。来店客がその場で選んで買う街なかの店は、ある程度の幅が要るため長めに。狙った車を探して買いに来る客が多い店は、短く回しても困りません。自店がどちらに近いかで、置きどころを寄せます。

Q.在庫回転と交叉比率で確かめる

逆算で出した台数が機能しているかは、回転率で毎月確かめます。在庫回転率は、月間販売台数を平均在庫台数で割って出します。月販10台で平均在庫20台なら0.5回、平均在庫10台なら1.0回です(出典3)。同じ販売台数でも、在庫を絞るほど回転は上がります。

交叉比率で利益効率まで見る

回転だけでは、薄利で数だけ回す店を高く評価してしまいます。そこで、回転に粗利率を掛けた交叉比率も併せて見ます。交叉比率=在庫回転率×粗利率で、回転が速く粗利も取れているほど高くなります(出典4)。台数を絞って回転が上がれば、同じ粗利率でも交叉比率は上がります。つまり数字の上でも、在庫を適正まで減らすほうが利益効率は高いという関係が確かめられます。

在庫回転率(月)
月販 ÷ 平均在庫
月販10台・平均在庫15台なら約0.67回。在庫を絞るほど上がる
交叉比率
回転率 × 粗利率
回転と粗利を1つで見る指標。高いほど在庫が効率よく利益を生む

この2つを毎月、前月と並べて記録します。台数を減らした月に回転と交叉比率が上がっていれば、適正へ寄せた効果が数字に出ています。勘ではなく、この推移で持ち方の良しあしを判断します。

Q.滞留車を分けて数える

在庫を1つの塊で見ると、減らすべき車が埋もれます。適正へ寄せる前に、在庫を仕入れからの経過日数で2つに分けて数えます。直近で動いている定番車と、長く動いていない滞留車です。

分ける線は自店の目標在庫月数に合わせます。目標を1.5か月=約45日に置くなら、仕入れから60日や90日を超えた車を滞留として別に数えます。減らす対象はこの滞留車で、よく動く定番車の幅には手をつけません。動く在庫を残したまま滞留車だけを処分すれば、台数は減っても販売はほとんど落ちません。

滞留は古いほど傷む:滞留車は時間とともに相場が下がり、整備や再商品化の費用も増えます。早く処分するほど損は小さく済みます。滞留車をいつ・いくらで見切るかの判断は、回転の改善とセットで詰めると効きます。回らない在庫が現金を削る仕組みは 中古車の在庫が回らない店の数字の見方 で扱っています。

Q.台数を絞ると売り逃すか

在庫を減らすと決めると、必ず「品ぞろえが薄くなって売り逃すのでは」という不安が出ます。ここは分けて考えます。売れる定番車を減らせば確かに機会は逃しますが、減らす相手はそこではありません。長く動いていない滞留車です。

滞留車は、その名のとおり長く売れていない車です。これを処分しても、もともと発生していなかった販売はほとんど減りません。一方で、滞留車が縛っていた現金が空けば、いまよく動いている定番車を厚めに仕入れられます。台数の合計は減っても、動く在庫の幅は守られ、むしろ厚くなります。

売り逃しが本当に怖いのは、在庫が多すぎて現金が尽き、いい玉を見送るときです。台数を適正へ寄せて現金を空けるほうが、来月の仕入れの自由は広がります。絞るとは品ぞろえを痩せさせることではなく、効かない在庫を効く在庫に入れ替えることです。

Q.市場の数字も持ち方の前提になる

適正台数は自店の数字で決めますが、仕入れ環境の見立てには市場の動きも要ります。2025年の中古車登録・届け出台数は648万7868台で、前年比0.2%減と3年ぶりのマイナスでした(出典1)。普通車の中古車登録は363万2179台、前年比0.8%減です(出典2)。台数は伸びていません。

一方で取引相場は高値で推移しています。流通台数が増えず仕入れが取りにくい局面では、抱え込んだ在庫を「いつか売れる」と寝かせる余裕は小さくなります。仕入れが難しいほど、手元の現金を空けて動く玉に素早く張れる状態が効きます。市場が伸びない時期ほど、適正な台数まで絞って回転を上げる持ち方が、仕入れの機動力に直結します。

数字の前提:登録台数は自販連・全軽自協の年間集計、相場は会場統計の傾向です。地域や扱う車種で実感は変わります。自店の月販と滞留の数字を主、市場の数字を従に置いて、持ち方を判断します。

Q.来月の仕入れでやること

適正台数へ寄せるための手順を、この順で回します。

適正在庫へ寄せる手順

やることいつ狙い
直近6〜12か月の平均月販台数を出す今週中逆算の起点になる実績値を固める
目標在庫月数を1.5〜2か月で1つ決める今週中回す速さを先に決め、適正台数を確定する
在庫を定番車と滞留車に分けて数える今週中減らす対象を滞留車に特定する
適正台数を超える分を滞留車から処分に回す今月中縛られた現金を仕入れ資金に戻す
回転率と交叉比率を前月と並べて記録する毎月末持ち方の良しあしを数字で判断する

適正台数は一度決めて終わりではありません。月販が変われば、掛ける台数も動きます。毎月の回転と交叉比率を記録し、季節や売れ行きの変化に合わせて台数の上限を引き直していくと、現金と品ぞろえの釣り合いが崩れにくくなります。

Q.よくある質問

中古車店の適正な在庫台数はどう計算しますか
月間の平均販売台数に、目標とする在庫月数を掛けて出します。たとえば月販10台で、仕入れから販売まで平均1.5か月で回したいなら、適正在庫は10台×1.5か月=15台です。先に何台が正解という決まった数があるのではなく、自店の月販と回したい速さから逆算して決めます。
在庫回転率はどう出せばいいですか
在庫回転率は、月間販売台数を平均在庫台数で割って出します。月販10台で平均在庫が20台なら回転率は0.5回、平均在庫が10台なら1.0回です。同じ販売台数でも在庫を絞るほど回転は上がります。回転と粗利率を掛けた交叉比率で見ると、台数を減らすほうが利益効率は高くなる関係が確かめられます。
在庫を減らすと販売の機会を逃しませんか
売れる車を減らせば機会は逃しますが、滞留している車を減らしても販売はほとんど落ちません。在庫を、直近で動いている定番車と、長く動いていない滞留車に分けて数えます。減らす対象は滞留車です。動く在庫の幅を保ちながら、現金を縛っている滞留車を先に処分すれば、台数を絞っても売り逃しは小さく抑えられます。

出典

  1. 2025年の中古車登録・届け出台数(648万7868台・前年比0.2%減・3年ぶりマイナス)― 日本自動車販売協会連合会(自販連)・全国軽自動車協会連合会の集計(日本経済新聞 2026年1月報道)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152X10V10C26A1000000/(取得日 2026-06-04)
  2. 普通車の中古車登録台数(363万2179台・前年比0.8%減)― 日本自動車販売協会連合会(自販連)集計(日本経済新聞 2026年1月報道)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152X10V10C26A1000000/(取得日 2026-06-04)
  3. 在庫回転率の計算式(在庫回転率=出庫数÷平均在庫数)と適正在庫を目標回転率から逆算する考え方 ― ITトレンド「在庫回転率とは」https://it-trend.jp/inventory_control/article/97-0052(取得日 2026-06-04)
  4. 交叉比率(在庫回転率×粗利率)で中古車在庫の投資効果を見る考え方 ― cars TREND「中古車在庫の投資効果は交叉比率でみる」https://cars-enjoy.com/biz/media/?p=1023(取得日 2026-06-04)
登録台数は年間集計で、地域や扱う車種により実感は異なります。在庫回転率・在庫月数・交叉比率は一般的な在庫管理の計算式で、適正な台数は自店の月販と現金繰りに合わせて決めてください。本記事は持ち方の手順を示すもので、個別の経営判断に代わるものではありません。
編集部より

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