「いい客はいるのに紹介が出ない」のは、頼んでいないからではない

あなたの店には、長く車検や整備で来てくれる客が何人もいる。それなのに、その人たちから新しい客の紹介はほとんど出てこない。こう感じているなら、まず一つ確かめてほしいことがあります。その客たちに、紹介してほしいと声をかけたことはありますか。多くの店で、紹介が出ない一番の理由は「頼んでいないから」ではなく、頼む前の準備ができていないからです。

自動車の買い替えは間隔が長く、1世帯あたりの保有はおよそ1台です(出典:自動車検査登録情報協会)。だから紹介は、客がその家の周りにいる人へ、車のことで困った折に少しずつ伝えていく形で進みます。ここで効くのは派手な仕掛けではありません。満足している客が、ちょうどよいときに、無理なく名前を出せること。あなたがやることは、客が善意で動くのを待つことではなく、その流れがふさがっている箇所を一つずつ開けることです。

紹介が出る順番 ― 満足の確認・声かけ・把握

紹介を増やそうとすると、つい「紹介キャンペーンを打つ」「謝礼を付ける」と仕掛けの話から入りがちです。順番が逆です。紹介は次の3つを順に回すと出てきます。

  • 満足の確認:その客が本当に満足しているかを、会計時などに一言で確かめます。満足していない客に紹介を頼んでも逆効果です。
  • 声かけ:満足が確認できた客にだけ、頼むのではなく自然に添える形で声をかけます。渡せる名刺やカードを用意しておきます。
  • 把握:新しく来た客に「どこで知ったか」を聞き、誰の紹介かを台帳に残します。紹介してくれた客にお礼を返すと、次もつながります。

この3つは順番が大事です。確認を飛ばして声かけだけ強めると、満足していない客にまで頼んで関係が冷えます。声かけだけして把握をしないと、せっかく紹介してくれた客にお礼も言えず、そこで流れが止まります。1つずつ、店の手元で何をするかに落とします。

満足を確かめてから声をかける ― 全員に頼まない

紹介してくれるのは、満足している客だけです。当たり前に聞こえますが、店の側はどの客が満足しているかを意外と把握していません。長く来てくれる客でも、本当は別の店と迷っていたり、前回の整備で小さな不満を抱えていたりします。その状態で「お知り合いを紹介してください」と頼むと、不満を思い出させてしまいます。

紹介の前に、まず満足を確かめます。難しい調査は要りません。引き渡しや車検の会計時に、こう聞くだけで十分です。

  • 「今回の対応で、気になったところはありませんでしたか」
  • 「次もうちで車検を受けていただけそうですか」

ここで何か引っかかりが出たら、それは紹介の前にまず直す相手です。逆に「問題なかった」「また頼む」と言ってくれた客が、紹介を頼める相手です。満足した客だけに絞って声をかけると、頼まれた側も気持ちよく動けて、紹介された人にもいい店として伝わります。満足を確かめる仕組みそのものは、別の関連記事で詳しく扱います。

なぜ全員に頼んではいけないか 満足していない客に紹介を頼むと、その人は知り合いに「あの店、悪くないけど…」と保留付きで伝えます。これは紹介ではなく、やんわりした悪評です。確認をはさむのは、紹介を増やすためであると同時に、悪い評判が広がるのを止めるためでもあります。

頼むのではなく、紹介しやすくする

満足した客に声をかけるとき、「紹介してください」と正面から頼むと、客は身構えます。営業のノルマを手伝わされている気分になるからです。効くのは、頼むことではなく、客が紹介しやすい状態を用意しておくことです。客の側が「車のことで困っている知り合い」を思い浮かべたとき、すぐ店の名前を出せるようにします。

具体的には、こういう形にします。

  1. 添える言い方にする:「もし車のことで困っている方がいたら、いつでも声をかけてください」と、命令ではなく余白を残した一言で終えます。
  2. 渡せるものを持たせる:名刺をもう1枚、または小さな紹介カードを「お知り合いに」と添えて渡します。客は口で説明する手間が省けて、車のことに詳しくない相手にも渡しやすくなります。
  3. 困りごとを具体的にする:「車検が高くて困っている方」「車の調子で迷っている方」と困りごとを一つ挙げると、客は周りの誰の顔を思い浮かべればよいかが分かります。

ここでも頼みすぎは禁物です。1回の来店で何度も口にすると押し売りに感じられます。会計の最後にさらりと一言、これで十分です。

誰の紹介で来たかを記録して、お礼を返す

声かけまではできていても、紹介が続かない店には共通点があります。誰の紹介で新しい客が来たのかを、把握していないことです。把握していないと、紹介してくれた客にお礼が返せません。お礼のない紹介は1回で終わります。「せっかく紹介したのに、ひと言もなかった」と感じさせれば、その人はもう次を紹介しません。

把握の手間はわずかです。新しい客が来店したら、こう聞いて台帳に書き残します。

場面聞くこと・やること記録する場所
新規来店時「どちらで当店をお知りになりましたか」と一言聞く台帳の案内記録欄に「○○さんの紹介」と記入
紹介と分かったら紹介してくれた客へ電話か一筆でお礼を伝える誰に・いつお礼したかを記録
次の接点で紹介者が来店したとき「先日はありがとうございました」と一声くり返し紹介してくれる客が見えてくる

この記録を続けると、誰がよく紹介してくれるかが台帳から見えてきます。その人たちこそ、店が大事に接点を保つべき相手です。出どころを聞いて書き残すだけの、来店1回につき数十秒の作業が、紹介を1回で終わらせず次につなぎます。台帳に何を持たせるかは関連記事で扱います。

謝礼を付けるなら ― 紹介する側とされる側の両方に

「紹介してくれたら割引や謝礼を」と考える店は多いはずです。やってかまいませんが、付け方を間違えると不公平感を生みます。あなたが謝礼を用意するなら、守ることは一つです。

  • 紹介した側と、紹介されて来た側の、両方に同じものを用意します。片方だけだと、もう一方が損をした気分になります。
  • 金額の大小より「気にかけてもらえた」という形が効きます。次回点検の割引、洗車1回無料など、店の負担が軽く、来店につながるものにします。
  • 謝礼を入口にしない。謝礼目当ての紹介は質が低く、続きません。満足・声かけ・把握の3つが回ったうえに、おまけとして足します。

謝礼は紹介を生む原因ではなく、生まれた紹介に感謝を形にするものです。順番を取り違えなければ、無理なく回ります。

今日から動かす ― 会計時の一言から始める

紹介の仕組みは、新しい道具を入れなくても今日から始められます。あなたがまず動かすのは、引き渡しや車検の会計という、すでに毎日ある接点です。そこに次の流れを乗せるだけです。

  1. 会計時に「気になったところはなかったですか」と満足を確かめます。
  2. 「問題なかった」と言ってくれた客にだけ、「困っている方がいたら声をかけてください」と一言添え、渡せる名刺を持たせます。
  3. 新規の客には「どこで知ったか」を聞き、紹介と分かったら紹介者にお礼を返し、台帳に書き残します。

この3ステップが回り始めると、紹介は「待つもの」から「会計のたびに少しずつ生まれるもの」に変わります。まず今日の会計から、満足を確かめる一言を一つ加えるところから始めます。満足を確かめる仕組みは関連記事へ、引き渡し後のフォローの続け方は別の関連記事へ続きます。