笑顔で帰った客が、なぜ次の車検で消えるのか
車検を終えて鍵を渡したとき、客は「ありがとう、また頼むね」と笑って帰っていきます。あなたはその顔を見て、満足してくれたと受け取ります。ところが2年後、その客は別の店で車検を受けています。連絡も、不満の一言もなく、ただ静かにいなくなります。なぜこうなるのか。満足したかどうかが問題なのではなく、満足を確かめて手当てする仕組みが店に無いからです。
表情は当てになりません。日本人の客は、その場で不満を口にしないまま、次から黙って店を変えます。整備の総売上高は伸びていて、令和6年度は6兆2,560億円と3年連続で増えました(出典:日本自動車整備振興会連合会)。需要そのものはあるのに、目の前の1台を次につなげられないなら、取りこぼしているのは外ではなく自店の手元です。あなたが確かめるべきは「満足そうな顔」ではなく、その客が次にまた来るかどうかです。
満足は言葉ではなく「次にまた来たか」で確かめる
満足を確かめる方法は、大きく2つあります。聞いて確かめる方法と、行動で確かめる方法です。どちらが確実かというと、行動のほうです。
| 確かめ方 | 分かること | 弱点 | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| 聞く (アンケート) | その日の手応え、何が良くて何が引っかかったか | 答えない客が多く、本音とずれることもある | 引き渡し直後に1問だけ |
| 数える (継続率) | 次の車検でまた来たかという結果 | 結果が出るのは2年後 | 離れた客を後から特定する |
アンケートは手応えが早く分かりますが、答えてくれる人はごく一部です。一方、次の車検でまた来たかどうかは、客が答える手間もなく、店の台帳に必ず残ります。言葉より行動のほうが嘘をつきません。だからこの記事では、1問のアンケートで手応えを拾い、継続率で結果を裏取りする、という2段構えをすすめます。乗用車は平均13.35年乗られ、その間に車検は5回以上来ます(出典:自動車検査登録情報協会)。1台の客と何年も付き合う商売だからこそ、満足を行動で見ておく意味があります。
その場で聞くなら1問だけ ― 何をどう尋ねるか
アンケートで失敗するのは、欲張って設問を増やすときです。質問が多いほど答えてもらえず、集まった少ない回答も偏ります。聞くなら、引き渡しのその場で1問だけにします。聞き方は「満足しましたか」より、次の一言が効きます。
点数を聞いたら、低かった人にだけ理由を一言たずねます。全員に理由を書かせると続きません。手元での回し方はこうなります。
- 点数を聞く:0〜10で口頭でもらい、その場で台帳に書きます。紙やタブレットを渡す必要はありません。
- 低い点数だけ深掘り:6以下なら「どのあたりが気になりましたか」と一言だけ聞きます。
- 台帳に1列足す:満足度の点数を、車両・連絡先と同じ台帳の1列に記録します。別の紙にしないことが続けるコツです。
あなたの店で今日からできるのは、この「1問・口頭・台帳に1列」だけです。アンケート用紙の準備も、回収の手間もいりません。
台帳から継続率を数える ― 行動で満足を裏取りする
点数は手応えにすぎません。本当に満足していたかは、次の車検でまた来たかで分かります。これを継続率といいます。難しい計算はいりません。台帳から2つの数を拾って割るだけです。
| 数えるもの | 取り方 | 意味 |
|---|---|---|
| 前回うちで 車検した客 | 2年前に自店で車検を受けた台数を台帳から数える | 戻ってくる母数 |
| 今回もうちで 車検した客 | そのうち、今回も自店で受けた台数を数える | 実際に戻った数 |
| 継続率 | 今回もうちで車検した客 ÷ 前回うちで車検した客 | 満足が行動に出た割合 |
たとえば2年前に100台が自店で車検を受け、今回もそのうち70台が戻ったなら、継続率は70%です。この数を年に1回出すだけで、満足が結果として見えます。さらに、戻らなかった30台の引き渡し時の点数を見ると、低い点数の人ほど離れていれば、点数が役に立っていると分かります。点数(手応え)と継続率(結果)を突き合わせると、満足の確かめ方そのものが正しいか検証できます。誰が離れたかの特定は、関連記事の離脱分析へ続きます。
低い声こそ拾う ― 当日中に一声かける
満足を確かめる仕組みで一番もったいないのは、低い点数や不満を集めて、そのまま放っておくことです。黙って他店へ移る客は、理由を残しません。低い声は、流出する前に手当てできる数少ない合図です。
- 当日中に一声:6以下の点数や不満には、その日のうちか翌日に電話か訪問で一声かけます。時間が空くほど効きません。
- 直せることは直す:作業内容の説明が足りなかった、待ち時間が長かったなど、直せることはその場で謝って直します。
- 直せないことは段取りに反映:価格や設備など、すぐ直せないことは次回の段取りや事前説明に反映します。
低い点数の客に声をかけると、流出を一件止められることがあります。新しい客を1人呼ぶより、いま離れかけている客を引き留めるほうが、手間も費用も小さく済みます。あなたが今日決めるべきは、「6以下が出たら当日中に誰が電話するか」の一点です。
明日から回せる最小の仕組みにする
満足を確かめる仕組みは、大きく作ると続きません。あなたの店ですたれるとしたら、原因は仕組みが立派すぎるからです。次の3つだけ決めれば、明日から回ります。
- 聞く:引き渡し時に「すすめたいか」を0〜10で1問。担当者が口頭で聞いて台帳に書きます。
- 手を打つ:6以下が出たら当日中に一声。誰が電話するかを決めておきます。
- 数える:車検の繁忙が落ち着いた月に、継続率を1回だけ数えます。
この3つが回り始めると、満足は「表情で何となく感じるもの」から「点数と継続率で確かめるもの」に変わります。まず今日、引き渡しのとき1問だけ点数を聞いて、台帳に1列足すところから始めます。低い点数への手当ては関連記事のフォローへ、満足した客から紹介を生む流れは別の関連記事へ続きます。