車は2年に一度しか戻らない ― 谷間で客に忘れられる

あなたの店で車検をした客が、次に必ず戻ってくるのはいつですか。乗用車の車検は新車の初回が3年、その後は2年ごとです(出典:国土交通省)。点検をきちんと案内できていても、店から声をかける機会はそう多くありません。この長い谷間のあいだに、客はチラシを見て、別の店の前を通り、知り合いに整備工場を勧められます。何の接点もなければ、2年後に案内が届いても「どこだっけ」と思われます。

しかも、客の母数そのものが薄くなっています。自家用乗用車の世帯あたり普及台数は2025年3月末で1.009台、12年連続で減り続けています(出典:自動車検査登録情報協会)。1世帯に1台あるかないかという時代に、いま付き合いのある1台を取りこぼすのは大きいのです。だからこそ、谷間を埋める一手として定期便りを出すかどうかが迷いどころになります。

便りは「予約を取る道具」ではなく「忘れられない土台」

便りを出すか迷うとき、あなたが気にしているのは「これで予約が増えるのか」のはずです。ここで期待をずらしておくと、判断を誤りません。便りを1回出して電話が鳴る、というものではないからです。便りの役目は次の2つです。

  • 谷間に名前を残す:定期的に届くことで、車のことで困ったとき真っ先にあなたの店が浮かびます。
  • 次の車検案内を読んでもらう:ふだん便りを受け取っている客は、年に一度の車検案内も開きます。見ず知らずの店からの案内は捨てられます。

つまり便りは案内の前打ちであり、リピートの土台です。新しい客を一から集めるより、すでに一度来た客を維持するほうが手間がかからないことは、古くから言われています(一般に「1対5の法則」と呼ばれます/出典:シナジーマーケティング)。便りはその維持にかける、少額で長く効く一手だと考えると、判断しやすくなります。

期待値を間違えない 便りの成果は「出した直後の予約数」では測れません。便りを続けた客と続けなかった客で、半年後・1年後の車検案内の反応がどう違うかで見ます。短期で結論を出すと、効く前にやめてしまいます。

出すと決めたら ― 何を書くかは「役に立つ8割・売り込み1割」

便りが続かない一番の理由は、中身が毎回「車検をどうぞ」になることです。売り込みばかりの便りは、3回目には開かれません。あなたが受け取る側なら、読んで役に立つものだけ封を切るはずです。中身の比率は、おおよそこう振り分けます。

比率の目安中身狙い
半分季節の点検・整備の話(夏前のエアコン、冬前のバッテリーやタイヤ)読んで得をする・自店の技術が伝わる
3割自分でできる簡単な手入れ、店や地域の近況親しみが残る・人柄が伝わる
1割点検・車検・買い替えなどの案内必要な人にだけ届く
1割客への問いかけ(困りごと・要望の受け口)反応が返る・次の便りの材料になる

季節の話は、毎年使い回せます。一度作った「冬前のバッテリーの話」は、翌年も日付だけ変えて出せます。使い回せる中身を3〜4本そろえておけば、便りづくりは一気に楽になります。ゼロから毎回書こうとするから続かないのです。

頻度と手段 ― 年2〜4回、紙とLINEを客で使い分ける

頻度は、立派さより続けやすさで選びます。毎月は作る側がもちません。年1回では谷間が長すぎて忘れられます。現実的なのは年2〜4回で、点検の時期や季節の変わり目に合わせると、内容も決めやすくなります。

手段は、客が誰かで変わります。あなたの店の客の年齢層と、連絡先として何を持っているかで選びます。

こういう客には向く手段理由
高齢で住所しか分からない紙のはがき・封書手元に届いて残る。机に置かれる
若い世帯・共働きLINE・メールその場で読まれる。費用がかからない
どちらか分からない紙で出しつつLINE登録を案内少しずつ届く手段を増やす

全員に同じ手段で出す必要はありません。台帳に「連絡してよい手段」を持っておけば、客ごとに紙とLINEを振り分けられます。手段ごとの細かい使い分けは関連記事で扱います。

続かない便りは出さないほうがまし ― 作る側の仕組み

便りで一番こわいのは、最初の数回で力尽きて止まることです。届いていた便りが急に来なくなると、客は「店が傾いたのか」とすら感じます。出すと決めたら、続く形にしてから始めます。あなたの店で続けるために、次を先に決めます。

  1. 誰が作るか決める:社長一人で抱えると、忙しい月に飛びます。事務や家族と分担するか、季節ネタを外注するかを決めます。
  2. 1年分の骨組みを先に置く:いつ・どの季節ネタを出すかを、年の初めに4回ぶん並べておきます。毎回ゼロから考えません。
  3. 送る相手を台帳から引く:次回車検が近い順、住所とLINEがある客から出します。送り先は台帳(関連記事)から決まります。

この3つが決まっていれば、便りは「気が向いたら出すもの」から「毎回決まって出るもの」に変わります。続けられる頻度を選ぶことが、立派な頻度を選ぶことより大事です。

出さないという判断もある ― そのときの代わりの一手

ここまで読んで「うちでは続けられない」と感じたなら、無理に便りを出さないのも正しい判断です。便りは谷間を埋める手段の1つであって、唯一ではありません。出さないと決めたあなたには、もっと軽い代わりの一手があります。

  • 点検案内だけは確実に出す:定期便りは省いても、点検と車検の案内は外しません。これが谷間の最低限の接点になります。
  • 引き渡し後に一度だけ連絡する:車検や整備が終わって少しして、「不具合は出ていませんか」と一本入れるだけで、印象がまるで変わります。
  • LINEでつながっておく:便りを定期で作れなくても、LINEの友だちにしておけば、必要なときだけ短く送れます。

まずやることは1つです。便りを出すと決めたなら、年2回・季節の点検の話を1枚、住所とLINEを持っている客から送ってみる。1回で判断せず、3回続けて、次の車検案内の反応がどう変わるかを見ます。便りで思い出してもらい、車検案内で予約につなげる。この順番で、谷間は埋まっていきます。