流出は「奪われる」前に「忘れられて」起きている

「今回はよそで車検を受けたらしい」と後から知ると、安い店に値段で奪われたように感じます。ですが、あなたの店から客が流れる多くは、値段で負ける前に、別の場所で決まっています。客が「そろそろ車検だ」と思った1〜2か月前、あなたの店から声がかからなかった。その間に他店のチラシやネット広告が目に入り、先に予約を入れた。値段を比べたのは、その予約の後です。

客は前にどこで車検を受けたかを、2年も経つと覚えていません。乗用車の車検は満了まで2年あり、その間に一度も連絡しなければ、客の中であなたの店は薄れていきます。流出の多くは奪われたのではなく、忘れられて起きます。だから、止める場所は値段ではありません。次に車検が来る時期を店がつかんでいて、先に声をかけられるかどうかで決まります。先に声をかければ、比較される前に予約が入ります。

流れが起きる場面を分ける ― どこで漏れているかを先に決める

流出をひとくくりに「価格競争」とみなすと、値下げしか手が残りません。実際は、流れが起きる場面が分かれています。自分の店がどこで漏れているかを決めてから、そこに手を打ちます。下の表で、案内のタイミング・気づく前・入庫直後・価格の場面の4か所に整理します。

流れる場面そのとき起きていること止める手
案内の
タイミング
満了の1〜2か月前に声をかけず、客が先に他店へ予約した満了40〜60日前に必ず案内を出す
気づく前次回車検日が分からず、誰が満了かを店がつかめていない次回車検日を台帳に控え、満了を拾う
入庫直後車検を受けてもらった後、次の予定も連絡手段も残さず終わった引き渡し時に次回車検日と連絡先を確認する
価格の場面他店との価格差を見せられ、値下げ以外の答えを返せなかった早期予約や代車など、値段以外の理由で答える

このうち、いちばん多く漏れていて、いちばん手を打ちやすいのが「案内のタイミング」です。ここを先に塞ぎます。残りは順に手を入れます。あなたの店ではどの場面で流れているか、まず1つに当たりをつけてください。

最初に塞ぐのは「案内のタイミング」 ― 満了の40〜60日前

案内を出す時期で、予約が入るか他店に流れるかが大きく変わります。早すぎると忘れられ、遅すぎると先に予約された後です。狙うのは満了の40〜60日前、客が「そろそろ車検」と意識し始め、まだどこにも予約していない時期です。

案内の時期客の状態予約の入り方
満了90日以上前まだ自分ごとでない読み流されて忘れられる
満了40〜60日前そろそろと意識し、未予約先に声がかかった店へ予約
満了30日以内すでに比較・予約済み他店に取られた後で届く

あなたの店で案内が遅れているなら、原因は「いつ出すか」を決めていないことです。満了月から逆算し、その2か月前の月に案内を出すと決めて、台帳の次回車検日で対象を毎月拾います。手段ははがき・電話・LINEのどれでもかまいません。大事なのは、客が動く前に先に声をかけることです。

なぜ「先に声をかける」が効くか 客は車検前に何店も比べて回るわけではありません。最初に思い出した1〜2店で多くは決めます。あなたの店が先に案内を出せば、その「最初に思い出す店」になれます。比較される土俵に乗る前に予約が入るので、値段の勝負にすらなりません。

次回車検日を台帳に残す ― 気づく前に流れを止める

案内を出そうにも、誰がいつ満了かを店がつかめていなければ、声のかけようがありません。流出が「気づく前」に起きるのはこのためです。土台になるのが、次回車検日を1か所にまとめて残すことです。車検証に有効期間が書かれているので、来店や引き渡しのたびに次回車検日を控えて台帳に入れます。

乗用車の車検は新車で初回3年、その後は2年ごとと決まっています(出典:国土交通省)。だから1台ごとに次の満了日が必ずあり、次回車検日で台帳を並べておけば、来月・再来月に満了を迎える車が自動的に拾えます。人の記憶ではなく、台帳に「次にいつ声をかけるか」を持たせます。

長く乗る客ほど、これが効きます。乗用車(軽自動車を除く)の平均使用年数は13.35年で、4年ぶりに長期化しました(令和7年3月末・出典:自動車検査登録情報協会)。1台で車検を5〜6回迎える計算になり、1人の客とのつき合いは10年を超えます。次回車検日が台帳にあれば、その10年でずっと声をかけ続けられます。控えていなければ、2回目の車検で静かに流れます。

価格で迷う客には、値下げの前に理由で答える

先に声をかけても、他店の価格を持ち出して迷う客はいます。ここで値下げに走ると、声をかけた上に利益まで削ることになります。値段は最後の手段にして、まず値段以外の理由で答えます。客が車検先を選ぶ理由は、価格だけではありません。

  • 早く予約してくれた客には、早期予約の特典や代車の確保を先に約束します。
  • 前回の整備内容を覚えている店は、客にとって安心です。台帳の整備履歴をひと言添えます。
  • 次に出そうな整備の見通しを伝えると、その場の安さより総額の納得につながります。
  • 連絡が取りやすい・融通が利く店だと分かれば、数千円の差なら通い続ける客は多くいます。

それでも価格で決める客には、早期予約割引のように、客にも店にも理由のある形で割引を出します。何の理由もなく値下げに応じると、来年も値下げが前提になります。値段で答えるのは、ほかの理由を出しきった後にしてください。

一度流れた客も、次の満了でもう一度声をかける

今回よそで車検を受けられたとしても、関係が切れたと決めつける必要はありません。前に書いたとおり、1台が一生で車検を5〜6回迎えます。今回の1回を逃しても、次の満了がまた2年後に来ます。そこで台帳の次回車検日が残っていれば、もう一度声をかける機会があります。

流れた客を「終わった客」として台帳から消すと、次の機会も消えます。次回車検日だけは残し、「前回はよそだった」と分かる印を付けておきます。次の満了の60日前に、今度は早めに声をかけます。一度よそに行った客が戻るのは珍しくありません。戻る入り口を、台帳に残しておくかどうかです。

まず今日、直近1年で満了を迎える客を台帳から書き出し、満了60日前の月に案内を出す予定を1つ入れてください。これが、流出を値段の勝負にしないための最初の一手です。つなぎ方は一見客の記事へ、案内をいつ出すかは関連記事へ続きます。