「減った気がする」を、数えられる形に置き換える
あなたが「最近、客が減った気がする」と感じているとき、まず確かめたいのは、その実感が本当に数字に出ているかどうかです。工場が少し静かになった、なじみの顔を見かけない、という肌感覚は当てになるようで、繁忙の波や1台あたりの単価の変化に簡単に引きずられます。誰が離れたかを名前で言えないうちは、対策の打ちようがありません。
ここで効くのが、自動車店ならではの強みです。客の再来店は気まぐれではなく、車検という日付で決まります。乗用車の車検は新車で初回3年、その後は2年ごとなので、1台ごとに「次にいつ来るはず」が決まっています(出典:国土交通省)。だから離脱は、来るはずの日に来なかった車として、台帳の上で数えられます。肌感覚をここから数字に変えていきます。
総数では離脱は見えない ― 戻り率で測る
客が減ったかを月の入庫台数や売上の総数で見ると、判断を誤ります。新しく入った客が、抜けていった客を埋めてしまうからです。総数が横ばいでも、中身が入れ替わっていれば、なじみの客は静かに減っています。総数では中身の入れ替わりが見えません。戻ってきた割合で測ります。
自動車店で使いやすいのは、車検を起点にした戻り率です。2年前に車検をした客のうち、今期また車検で戻った客が何割か、を出します。車検は2年周期なので、1年単位ではなく2年前と今を突き合わせます。下の3つの見方で確かめます。
| 見る指標 | 出し方 | 分かること |
|---|---|---|
| 入庫の総数 | その月・その年の入庫台数を数える | 忙しさは分かるが、新規が離脱を隠す |
| 車検の戻り率 | 2年前の車検客のうち、今期戻った客の割合 | なじみの客が維持できているか |
| 戻らなかった台数 | 2年前の車検客 −(今期戻った客) | 離脱の実数。次に名前で特定する母数 |
戻り率の出し方と、落ちたときの読み方は、関連記事「車検リピート率の見方」で詳しく扱っています。この記事では、戻らなかった台数を出したあと、その1台ずつを誰なのかまで特定する手順に進みます。
どの客が離れたか ― 台帳から1台ずつ抜き出す
戻らなかった台数が出たら、次はその中身です。あなたの台帳を次回車検日で並べ替えて、満了日を過ぎているのに、その後の入庫記録がない車を上から拾います。これが離脱の候補リストです。人数ではなく「この車・この客」まで降りるのが、ここでの仕事です。
抜き出すときは、次の3つを1行に揃えておくと、あとの判断が速くなります。
- 車両:車種・ナンバー・前回車検の満了日。いつ来るはずだったかが分かります。
- 客:氏名・連絡先・最後に来店した日。声をかけ直せる相手かが分かります。
- 最後のやり取り:前回、案内を出したか、整備で何をしたか。離れた手前の様子が分かります。
台帳が紙やExcelに散らばっていて、次回車検日で並べ替えられないと、この抜き出しが進みません。その場合は先に台帳を1か所にまとめる必要があります(関連記事)。逆に言えば、次回車検日で並ぶ台帳が1つあれば、離脱の特定はほぼ自動で終わります。
「自然に離れた」と「他店に流れた」を分ける
候補リストができても、全部があなたの店の取りこぼしではありません。離脱には、手の打ちようがないものと、打てるものが混ざっています。ここを分けないと、防げない離脱まで自分のせいに見えて、焦りだけが残ります。1台ずつ、次の2つに振り分けます。
- 自然に離れた:廃車、買い替えで他店から新車を買った、引っ越し、家庭の事情で車を手放した。乗用車の平均使用年数は13.35年(2025年3月末、自動車検査登録情報協会)で、寿命や乗り替えで離れる車は毎年一定数あります。これは止められません。
- 他店に流れた:車はまだ乗っているのに、車検や整備を別の店で受けるようになった。これがあなたの店として手を打てる離脱です。
振り分けは、電話1本や次の来店時のひと言で確かめられます。「お車、その後いかがですか」と聞けば、手放したのか、乗り続けているのかはすぐ分かります。乗り続けているのに戻らない客だけを、対策の対象として残します。
離れる前の最後の接点に、穴がある
「他店に流れた」客が何人か残ったら、いよいよ原因に近づきます。1人ずつ、離れる前の最後の接点を台帳でたどります。あなたが探すのは、その客たちに共通する出来事です。たとえば、こういう点を見ます。
- 車検の案内:満了の前に、はがきやLINEで案内を出していたか。出していないなら、案内の取りこぼしが穴です。
- 前回の整備:直前の車検や整備で、追加見積りでもめた、納期が延びた、といった引っかかりがなかったか。
- 来店の間隔:車検と車検の間に一度も来ていなかったか。2年間まったく接点がなければ、次の車検で他店に比べられても不思議はありません。
1人や2人では偶然ですが、離れた客の多くが同じ点を抱えていたら、そこが取りこぼしの穴です。案内を出していなかった客が大半なら、直すのは客ではなく案内の仕組みです。原因の見当がついてから、声のかけ直しや流出を止める手に進みます(関連記事)。当てずっぽうで全員に詫びの連絡を入れるより、穴を1つ塞ぐほうが速く効きます。
台帳が薄いなら、今期から記録を足して測れるようにする
ここまでの手順を試して、「2年前の車検客リストが出せない」「最後の接点が記録に残っていない」と気づくこともあります。それは台帳が悪いのではなく、これまで測る必要に迫られていなかっただけです。今からでも遅くありません。次の3つを今期から足せば、来期にはこの分析が回せます。
- 次回車検日を全車に:これが無いと戻り率も離脱も出せません。最優先で埋めます。
- 案内を出した記録:誰に、いつ、何で案内したかを1行残します。出した・出していないが後で分かります。
- 来店のたびのひと言メモ:見積りでもめた、満足していた、といった一言を残すと、離れた手前の様子が後で読めます。
離脱の特定は、立派なシステムがなくても、次回車検日で並ぶ台帳1つから始められます。まず今日、2年前に車検をした客リストを出して、そのうち戻った客に印をつけるところから始めてください。印のつかなかった行が、あなたの店がこれから向き合う相手です。