新規はなぜ利益を薄くするのか ― 1:5の法則
新規が増えても利益が残らない理由は、1件あたりにかかる費用にあります。マーケティングの「1:5の法則」では、新規客を1人獲得するには、すでに来ている客を1人つなぎ留めるおよそ5倍の費用がかかるとされます。チラシ、ポータルの掲載料、広告費。新規を1台呼ぶたびに、これらが積み上がります。
車検という商売は、この法則と相性がいい。車検は新車登録から3年後、以降は2年ごとに必ず来る需要だからです。一度来た客に次も選んでもらえれば、広告費をほとんどかけずに2年後の入庫が見込めます。同じ「来店1件」でも、新規は費用をかけて買い、リピートはほぼ手間だけで得られる。この差が、月末の利益に効いてきます。
新規を1件増やすには費用がかかりますが、すでに来た客が離れるのを止めるのは、案内のひと手間で済みます。新規を増やすことばかりに目が向きがちですが、離れる客を止めるほうが安く済むことが多い。あなたの店ですでに来た客を逃さないことが、いちばん安く利益を厚くする道です。
車検の継続率は放っておくと下がる ― 数字で確かめる
「うちはリピートできている」と感じていても、継続は何もしなければ静かに減ります。GfK Japanの車検利用実態調査(自動車購入者8,079名)では、新車購入者がディーラーに車検を出す割合は、回数を重ねるほど下がっていきます。
| 車検の回数 | ディーラーに出す割合 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 1回目(購入3年後) | 77% | 新車購入の流れで、多くがそのまま依頼する |
| 回数を重ねるごと | 少しずつ低下 | 保有年数が延びるほど、別の依頼先を探し始める |
| 5回目以上(11年目以降) | 52% | 半数近くが、最初の依頼先から離れている |
これはディーラーの数字ですが、整備工場でも同じことが起きます。1回目で来た客の半数近くが、放っておけば数回後には別の店に流れている。車が古くなるほど車検も整備も増えるのに、その客を取りこぼしているなら、目の前で売上を逃しています。車齢は延び続けていて、自動車検査登録情報協会の調べでは2025年3月末の乗用車の平均車齢は9.44年と、33年連続で高齢化しています。古い車を持つ客ほど、頼り先を選び直す機会が増えるということです。
新規とリピート、どちらに寄せるか ― 自店の見分け方
どちらに力を入れるかは、店の状態で決まります。やみくもに新規を追う前に、次の3つで自店を見分けてください。
| 自店の状態 | 寄せる先 | 先にやること |
|---|---|---|
| 開業して数年。過去客が積み上がっている | リピートが先 | 次の車検案内を漏れなく出す。連絡先を取り切る |
| 過去客はいるが、連絡先が伝票止まりで使えていない | まず土台づくり | 名前と車・満了日を一覧にして案内できる形にする |
| 開業まもなく、過去客がほぼいない | 新規だが残し方とセットで | 新規で来た客の連絡先を必ず残し、次へつなぐ |
多くの整備・車検店は1つ目か2つ目です。何年も営業していれば、過去に来た客は確実にいる。その連絡先と車の満了日が手元で使える形になっているか。ここが「リピートできる店」と「新規を追い続ける店」の分かれ目です。開業まもない店でも、新規をただ集めるのではなく、来た客を残す仕組みを最初から持てば、1年後にはリピートの土台ができます。
リピートの取りこぼしを止める ― 先にやること
再来店を増やすと言っても、特別なことは要りません。車検は満了日が決まっているので、来る時期が読めます。読める需要を逃さない仕組みを、上から順に組みます。
どれも費用はほとんどかかりません。新しく客を買うのではなく、すでに来た客を逃さないだけ。これを先に組むと、毎月の新規目標に追われる感覚が和らぎます。
新規を足すなら、リピートにつながる入口から
リピートの土台ができたら、新規を足します。ここで大事なのは、新規をただ集めるのではなく、リピートにつながる客を集めることです。1回きりで終わる客ばかり増やしても、底の穴はふさがりません。
- 近所の客を呼ぶ入口を優先する。地図検索やチラシで近隣の客を集めれば、次の車検でも通いやすく、リピートにつながります。遠方の値段だけで来た客は離れやすい。
- 新規で来た客の連絡先を必ず残す。名前・車・満了日を、その場で一覧に加えます。残せなければ、その新規はリピートの土台になりません。
- 安さだけで呼ばない。値段で来た客は、より安い店が出ればそちらへ移ります。整備の説明や対応の丁寧さで選ばれた客のほうが、次も選んでくれます。
新規の入口をどれから増やすか――チラシ、Googleマップ、ホームページのどこに手をつけるかは、店の今の状態で変わります。手をつける順番は車検の入庫を増やす集客の順序でまとめました。
今月やること ― 30分の棚卸し
難しく考えず、まず自店の取りこぼしを数字で見ます。台帳か伝票を出して、客になったつもりではなく、店の経営者の目で確かめてください。
- この3か月で車検満了を迎える客を、台帳から書き出す。何人いるか数える。
- そのうち、満了案内を出す段取りができている客が何割か。出せていなければ案内を準備する。
- 過去1年に車検をした客のうち、連絡先(電話・住所・LINEのどれか)が取れている割合を数える。
- 連絡先が取れていない客が多いなら、次の来店で必ず残す仕組み(受付票の項目追加など)を決める。
- 引き渡し時に言う「次の案内」のひと言を、紙1枚に書いて受付に貼る。
この30分で、あなたの店がどれだけ再来店を取りこぼしているかが見えます。新規を1件増やす広告費を考える前に、すでに来た客を逃さない。底の穴をふさいでから水を足すのが、利益を厚くする一番安い順番です。新規の集め方はそのあと、店の状態に合わせて足していきます。
よくある質問
新規とリピート、結局どちらを先にやればいいですか。
新規獲得は既存客の維持より本当にコストが高いのですか。
うちは新規がほとんどで、リピートできる客がそもそも少ないです。
再来店を増やすために、まず何から手をつければいいですか。
- GfK Japan(現NielsenIQ)「車検利用実態調査」自動車購入者8,079名へのインターネット調査(2015年発表。新車購入者のディーラー車検依頼率は1回目77%・5回目以上52%)。GfKの一次ページは現在閉鎖。数値は当時の調査リリース(@Press 2015年5月7日)で確認
https://www.atpress.ne.jp/news/60806 - シナジーマーケティング マーケティング用語集「1:5の法則」(提唱者:フレデリック・F・ライクヘルド/ベイン・アンド・カンパニー。新規獲得は既存維持の5倍コスト)
https://www.synergy-marketing.co.jp/glossary/law5-1/ - 一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会(JASPA)「令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要」(総整備売上高6兆2,561億円。車検整備は全整備売上の主要部分)
https://www.jaspa.or.jp/Portals/0/resources/jaspahp/member/data/pdf/R06jittaityousa.pdf - 一般財団法人 自動車検査登録情報協会「平均車齢・平均使用年数」(令和7年=2025年3月末。乗用車の平均車齢9.44年で、前年比0.10年延び、33年連続で高齢化・31年連続で最高齢を更新)
https://www.airia.or.jp/publish/file/syarei_2025.pdf
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