Q.提示額が勘で決まると、なぜ粗利が消えるか
お客さまが車を持ち込んできた。年式と走行を見て、だいたいこのくらいかと額を口にする。お客さまの顔が曇れば、もう少し乗せる。この決め方に、あなたも心当たりがあるはずです。台数は集まっても、決算で残る利益が思ったほど伸びない。その理由は、提示額を出す瞬間にあります。
提示額を勘で出すと、起点になっているのは「再販でいくらになるか」ではなく「他店ならいくら出しそうか」です。お客さまに引かれたくない一心で額を乗せると、その上乗せ分はそのまま粗利から引かれます。1台ごとに数万円ずつ削れば、月の買取台数だけ積み上がって、決算で消えます。買い負けないことを優先した結果、利益の出ない在庫が増えていきます。
防ぐ手は単純です。お客さまに額を伝える前に、その車で出していい上限額を先に決める。再販価格から商品化費と必要粗利を引いた残りが、その上限です。上限を超える額は、どれだけお客さまに渋られても出さない。提示額の管理は、口を開く前の逆算で決まっています。
Q.仕入れ単価が上がる相場ほど、逆算が粗利を守る
提示額を粗利から逆算しておく値打ちは、相場が上がっている局面ほど上がります。いまがその局面です。業者オークション最大手のUSSでは、2025年度の落札の平均成約単価が125万5000円で、前年から4.1%上がりました(出典1)。仕入れの基準になる落札相場が上がれば、お客さまの「他店ではもっと出ると言われた」も裏付けを持ち、提示額への突き上げが強くなります。
一方で、売る側の市場は広がっていません。2025年の中古車登録台数は363万2179台で、前年から0.8%減り、3年ぶりのマイナスでした(出典2)。仕入れの単価は上がり、売る台数は増えない。この2つが重なると、提示額をわずかに乗せただけで粗利が消えやすくなります。だからこそ、勘ではなく逆算で上限を先に引いておくことが効いてきます。
Q.提示の上限額を逆算で組み立てる
提示の上限額は、その車を自店でいくらで再販できるかから逆算します。想定再販価格を起点に、商品化や整備の費用、確保したい必要粗利を順に引きます。残った額が、その車に提示してよい上限です。査定額そのものを判断材料にせず、この上限を超えるかどうかだけで決めます。
記事冒頭の表のとおり、想定再販価格130万円の車なら、商品化・整備13万円、必要粗利17万円を引いて、上限は100万円になります。お客さまへの提示は、この100万円の内側で出します。100万円を超えて出した瞬間に、その超えた分が粗利を削り、売れるまで現金を縛る在庫に変わります。
Q.逆算の起点になる想定再販価格を固める
上限額の精度は、想定再販価格の精度で決まります。その想定再販価格は、相場の3点を重ねて固めます。1つだけだと外れますが、3つがそろうと幅ではなく1つの数字に落ち着きます。
- 過去の落札相場 ― 同じ車種・年式・走行・グレードが、直近の会場でいくらで成約したか。会場が出す相場データで確認します。仕入れ直しのときの実勢に近い数字です。
- いまの店頭相場 ― 同じ条件の車が、近隣や全国の販売店でいくらの売価で並んでいるか。これが想定再販価格の上限の目安です。
- 自店の販売実績 ― 過去に似た車を、自店が実際にいくらで何日で売ったか。立地と客層を映した、最も当てになる数字です。
3つの数字が近ければ、想定再販価格に自信を持って提示の上限を出せます。逆に3つがばらつく車は、再販価格の読みが甘いまま上限を出すことになります。相場の読みにくい珍しい車ほど、ここがぶれます。提示額が担当者によってばらつくときも、根本はこの再販価格の見立てがそろっていないことにあります。査定の基準づくりは 買取査定のばらつきを仕組みで抑える で扱っています。
Q.他店より高く出すべきか ― 額の決め手は競合ではない
提示額をめぐって一番迷うのが、他店との競り合いです。「よそはもっと出すと言っていた」と言われると、つい上限を超えて乗せたくなります。ここで額の決め手にすべきは、他店の提示ではなく、自店の再販価格と必要粗利です。
他店に合わせて上限を超えると、その1台は仕入れられても粗利は消えます。買えた満足は残りますが、利益は残りません。高く買えない車は見送り、自店の客層に売り先が浮かぶ車に提示を寄せるほうが、店全体では粗利が積み上がります。判断の軸を「買取台数」から「1台あたりの粗利」に移すと、見送る勇気が出てきます。
| 提示を出す車 | 上限を超えてまで追わない車 |
|---|---|
| 自店の客層に売り先が浮かぶ | 誰に売るか想像できない |
| 相場がはっきりした定番車 | 相場の読めない珍しい車・特殊な仕様 |
| 過去に自店で短い日数で売れた車種 | 過去に滞留した車種・不人気の色や仕様 |
| 商品化の費用が読めて再販価格に自信がある | 修復歴や過走行で手当てと説明が重い |
右側の車を他店に競り勝って買っても、売れずに残れば在庫として現金を縛り続けます。買い負けの怖さより、回らない在庫が店の体力を削ります。仕入れた車が動かないときの数字の見方は 中古車の在庫が回らない店の数字の見方 で扱っています。提示額の線引きと在庫の回転は、同じ問題の表と裏です。
Q.即決していい額と、持ち帰る額の線引き
お客さまは、その場で額が出ることを望みます。ただ、すべてを即決すると、再販価格の読みが甘い車で上限を出し過ぎます。即決の可否は、相場の読みやすさで線を引いておきます。
相場のはっきりした定番車で、想定再販価格に自信があるなら、逆算した上限の範囲でその場で出して問題ありません。相場が読みにくい車や、再販の売り先が浮かばない車は、その場で上限いっぱいを出さず、相場を確認してから連絡する形にします。この線を車種ごとに決めておくと、担当者が代わっても提示額がぶれにくくなります。
Q.次の買取でやること
次にお客さまが車を持ち込む前に、この順で準備します。額を口にする前の段取りが、粗利を残すかどうかを決めます。
次の買取の手順
| やること | いつ | 狙い |
|---|---|---|
| 狙う車種の過去落札相場と店頭相場を調べる | 事前に | 想定再販価格の根拠を固める |
| 想定再販価格から商品化費・必要粗利を引いて上限額を出す | 商談前 | 査定額でなく上限額で判断する |
| 即決していい車種と持ち帰る車種の線を決める | 商談前 | 読みにくい車で出し過ぎない |
| 他店の額に合わせて上限を超えない、を守る | 商談中 | 競り合いの熱で上限を動かさない |
| 買取車の実際の粗利と販売日数を記録する | 販売後 | 次の想定再販価格の精度を上げる |
買い取って終わりにせず、その車が実際にいくらで何日で売れたかを記録します。想定再販価格と実績のずれが見えれば、次の買取で上限額の置き方が締まります。提示額の精度は、この記録を重ねた回数で上がっていきます。
Q.よくある質問
出典
- USSオートオークション 2025年度実績(出品台数350万4437台・成約台数234万7566台・成約率67.0%・平均成約単価125万5000円/前年比+4.1%)― 一般社団法人 日本自動車会議所「USSの出品台数、2025年度は4年連続で過去最高」https://www.aba-j.or.jp/info/industry/26434/(取得日 2026-06-04)
- 2025年の中古車登録台数(363万2179台・前年比0.8%減・3年ぶりマイナス)― 一般社団法人 日本自動車販売協会連合会(自販連)「中古車統計データ」https://www.jada.or.jp/pages/114/(取得日 2026-06-04)
- 中古車を買い取って販売する事業に必要な古物商許可・申請手数料(19,000円)― 警視庁「古物商許可申請」https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/tetsuzuki/kyoka.html(取得日 2026-06-04)
提示額の基準と買取の記録を、店の仕組みにしたいときは
上限額の出し方や、即決の線引き、買取から販売までの記録の付け方で迷ったら、相談を受け付けます。自店の客層と回転に合わせて、続けられる形を一緒に考えます。
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