Q.なぜ値引きの1万円が、思った以上に重いのか
「あと2万、なんとかなりませんか」。お客さまにそう言われて、決めきれずに上司を呼びに行く。あなたにも覚えのある場面だと思います。目の前で決まりそうな1台を逃したくない気持ちと、利益を削りたくない気持ちが、同時に引っぱり合います。
その2万円が重いのは、仕入れの相場が上がっているからです。中古車オークション最大手のUSSによると、2025年10月の成約車両単価は130万5,000円で過去最高を更新し、12月も125万2,000円と前年同月比11%増で推移しました(出典1)。仕入れに払う額が上がれば、同じ売価でも手元に残る粗利は薄くなります。薄くなった粗利から値引きを出すので、1万円の重みが以前より増しています。
台数の側も追い風ではありません。自販連がまとめた2025年の中古車登録台数は363万2,179台で前年比0.8%減、なかでも小型乗用車は118万970台と過去最低になりました(出典2)。仕入れは高く、売れる台数は伸びにくい。この組み合わせのなかで、1台ごとの粗利を値引きで削ると、全体の利益が見えないところでやせていきます。だから線を、商談に入る前に引いておきます。
Q.値引きの線を決める3つの数字
値引きの線は、感覚ではなく3つの数字で決めます。冒頭の表がその組み立てです。1台ごとに、この3つを商談前に紙か見積システムに入れておきます。
| 数字 | 意味 | 決め方 |
|---|---|---|
| 粗利の床 | その1台で必ず残す利益額 | 商品化の手間・回転・車格から自店の基準で決める |
| 下限売価 | これ以上は下げない売価 | 仕入れ・諸費用 + 粗利の床 |
| 最大値引き枠 | その車で出せる値引きの上限 | 表示価格 − 下限売価 |
表示価格138万円、仕入れと諸費用が113万円の車で、粗利の床を13万円と決めるとします。下限売価は113万円+13万円で126万円。最大値引き枠は138万円から126万円を引いた12万円です。商談では、この12万円の範囲で値引きを出し、126万円を割る話になったら止まります。あなたが現場で見るのは、表示価格からの値引き額ではなく、下限売価との距離です。
Q.本体を下げる前に出す手札
値引きを求められたとき、すぐに車両本体を下げるのは、手札を1枚しか持っていないからです。本体値引きは粗利をそのまま削りますが、削れ方の違う手札がほかにあります。本体を下げる前に、これらを先に出します。
| 手札 | 渡せる満足 | 粗利への効き方 |
|---|---|---|
| 下取り価格の見直し | 下取り車の評価を上げて総額を下げる | 下取り車を相場で再販できれば、本体値引きより傷が浅い |
| 納車整備・用品の付帯 | コーティングやマット等を付ける | 原価ぶんで済み、定価から引くより削れが小さい |
| 納期の調整 | 希望日への前倒し・段取り | 粗利を削らずにお客さまの納得につながる |
| 現状渡しへの切り替え | 整備項目を絞って価格を下げる | 整備原価が下がるため、売価を下げても床を守りやすい |
同じ「2万円安くしたい」でも、本体から2万円引くのと、下取りを2万円上げて再販でその差を埋めるのとでは、店に残る利益が変わります。多くのお客さまは、本体価格の数字そのものより、支払う総額が下がったかどうかで納得します。本体値引きは最後の手段に置き、まず別の手札で総額を動かします。
Q.在庫日数で値引き枠を動かす
最大値引き枠は、ずっと同じではありません。入庫したばかりの車と、3か月並んでいる車では、出してよい値引きが違います。保管場所・展示・資金の費用は、売れるまで日々かかり続けるからです。滞留が長い車は、値引きしてでも現金に換えたほうが、抱え続けるより損が小さくなる地点があります。
そこで、在庫日数の区切りごとに値引き枠の上限を決めておきます。担当ごとの感覚ではなく、日数という数字で線を動かします。下は組み立て方の一例です。区切りと枠は自店の回転と金利負担に合わせて直してください。
| 在庫日数 | 値引き枠の考え方 | 枠の上限(例) |
|---|---|---|
| 0〜30日 | 相場で売れる時期。枠は最小 | 表示の3%まで |
| 31〜60日 | 動きが鈍れば枠を一段広げる | 表示の5%まで |
| 61〜90日 | 滞留入り。床を割らない範囲で広げる | 表示の8%まで |
| 91日以上 | 処分も含めて判断する | 床割れ可・要承認 |
90日を超えた車は、粗利の床を割ってでも売り切るか、業者オークションに戻すかを決める段階です。滞留した車が店の現金をどう縛るかは 中古車の在庫が回らない店の数字の見方 で扱っています。値引きの線引きと在庫の回転は、同じ問題の表と裏です。
Q.押されても止まる ― 承認の線を引く
3つの数字を決めても、商談の流れに押されて、つい床に近づくことがあります。線を頭のなかだけに置くと、相手の粘りで動いてしまうからです。止まるためには、誰がどこまで下げられるかを、役割ごとに紙で決めておきます。
- 担当 ― 最大値引き枠の中までは、その場で判断して出す
- 店長 ― 下限売価を割る値引きは、店長の承認がなければ出せない
- 記録 ― 床を割った1台は、理由とともに台帳に残す
この承認の線があると、押された場面で「ここからは店長に確認します」と言えます。あなた一人で抱え込まずに済み、相手にも、これ以上は簡単に動かない価格だと伝わります。値引き枠と下限売価を見積書に書き込んでおけば、口頭の約束より線がはっきりします。
Q.値引きを記録して次に活かす
値引きの線は、引いて終わりではありません。実際にいくら値引きして、何日で売れ、いくら残ったかを記録すると、次の床の置き方が締まります。次の1台から、この順で回します。
値引きの線を回す手順
| やること | いつ | 狙い |
|---|---|---|
| 1台ごとに粗利の床・下限売価・最大値引き枠を決める | 出品時 | 商談前に線を確定させる |
| 本体値引き以外の手札を見積に用意する | 商談前 | 本体を下げずに総額を動かす |
| 在庫日数で値引き枠の上限を見直す | 週次 | 滞留車だけ枠を広げる |
| 下限売価を割る値引きは店長承認を通す | 商談中 | 床を割る判断を一人で抱えない |
| 実際の値引き額・販売日数・残った粗利を記録する | 販売後 | 次の床の精度を上げる |
記録がたまると、どの車種でどれだけ値引きが出やすいか、どの床なら回りやすいかが見えてきます。値引きの線は、こうして1台ずつのデータで締めていくものです。感覚で引いた線を、数字で引き直していきます。
Q.よくある質問
出典
- 中古車オークション成約車両単価(2025年10月 130万5,000円で過去最高・12月 125万2,000円で前年同月比11%増)― 日本経済新聞「2025年中古車登録・届け出、3年ぶりマイナス 取引相場は高値で推移」(2026年1月15日、ユー・エス・エス〈USS〉の数値を引用)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152X10V10C26A1000000/(取得日 2026-06-04)
- 2025年の中古車登録台数(363万2,179台・前年比0.8%減、小型乗用車118万970台で過去最低)― 一般社団法人日本自動車販売協会連合会(自販連)「中古車統計データ」(中古車登録台数統計)https://www.jada.or.jp/pages/114/(取得日 2026-06-04)
- 中古車登録台数の定義(新規登録・移転登録・変更登録の合算であり小売台数ではないこと)― 一般社団法人日本自動車販売協会連合会(自販連)「中古車統計データ」https://www.jada.or.jp/pages/114/(取得日 2026-06-04)
値引きの線と承認のルールを、店の仕組みにしたいときは
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