Q.同じ車で担当ごとに額が変わるのは、どこで起きているか

同じ年式・同じ走行の車に、ベテランの担当は52万円、入って半年の担当は45万円を出す。お客さまには「店として」一つの額に見えています。後で社内で突き合わせて、なぜ7万円も違うのかを説明できないとき、あなたは基準が揃っていないことに気づきます。額が高すぎれば粗利が消え、低すぎれば買い負けて仕入れが細る。どちらも店の現金に跳ね返ります。

原因を「経験の差」で片づけると、対策は「ベテランに任せる」になります。これでは担当が一人に固定され、その人が休んだ日や辞めた後に額が崩れます。本当の原因は別のところにあります。標準状態をどこに置くか、傷をいくら引くか、相場のどの数字を使うか、粗利をいくら残すか。この判断の中身が、担当それぞれの頭の中にしかないことです。

頭の中の基準は人ごとに違い、本人も毎回少しずつ動きます。だから揃えるべきは人ではなく、判断の中身を書き出した一枚の紙です。あなたがこの記事で決めるのは、その基準書に何を載せ、どの順で揃えるかです。

Q.査定額は3段で決まる ― 揃える段を取り違えない

査定額は、一つの数字がいきなり出てくるわけではありません。日本自動車査定協会の説明では、出発点となる基本価格があり、そこに状態の差を加減点して、最後の査定価格になります(出典1)。揃える作業に入る前に、自店の額がこの3段のどこで開いているかを切り分けます。冒頭の表がその3段です。

基本価格は、その車種・年式・走行の出発点の価格です。加減点は、標準状態と比べて状態がどれだけ違うかを点数(金額)で足し引きする部分です。査定価格は、その2つを合わせて提示する最終額です。担当ごとのズレが、出発点の置き方なのか、傷の引き方なのか、最後の粗利の取り方なのかで、直す場所が変わります。

3段を分けずに「だいたいこのくらい」で出していると、どこがずれたのか後から追えません。まず1台を選び、ベテランと若手の額を3段に割って並べてみます。差の大半が一つの段に集まることが多く、そこが最初に文章化すべき場所です。

Q.全国共通の基準と、自店で決める基準の境目

「査定基準は全国共通のはずだから、それに従えば額は揃う」と考えると、揃えどころを外します。共通なのは、標準状態と比べてどこを何点引くかという加減点の考え方です。金額そのものは共通ではありません。

査定協会の説明では、出発点の基本価格は各社ごとに、県ごとの小売販売実績から自店の諸経費・粗利益・再販までの整備費などを引いて決めるとされています。だから立地や販売政策が違えば額も変わる、と協会自身が明記しています(出典1)。査定士の資格は、この共通の考え方を学ぶ土台です。中古自動車査定士には小型車査定士と大型車査定士があり、学科と実技の研修を受けて技能検定に合格し、協会への登録が要ります(出典2)。資格は共通の物差しを身につける入口で、自店の基本価格や残す粗利までは決めません。

境目の見分け方:「標準状態と比べて何を引くか」は共通の考え方を土台にできます。「いくらから始めて、いくら残すか」は自店で決めるしかありません。前者は査定士教本や協会の基準を下敷きに、後者は自店の経費と粗利の実額を基準書に書きます。

Q.標準状態を1つに固定する

加減点は、標準状態という物差しと、目の前の車を比べて点数をつける仕組みです。査定協会も、加減点基準は標準状態の車と査定する車を比べるためのものだと説明しています(出典1)。物差しの位置が担当ごとに動けば、同じ傷でも引く点数が変わります。だから最初に固定するのは、減点項目より先に、この標準状態の置き方です。

標準状態は文章で一つに決めます。たとえば「年式相応の小傷はあるが、修復歴なし・内外装はそのまま展示できる状態・記録簿あり・タイヤ残り溝は基準を満たす」というように、写真を1枚添えて言葉にします。この状態を加減点なしの起点とし、ここから良ければ加点、悪ければ減点します。よく扱う車種ごとに、見本の状態を写真で残しておくと、新しい担当も同じ物差しで見られます。

あいまいなまま「きれいな車」「ふつうの車」で運用すると、人によって「ふつう」の位置がずれます。言葉と写真で固定するほど、後の減点の足し引きが安定します。

Q.減点項目を表にして、引く幅を決める

標準状態を固定したら、そこから何をいくら引くかを表にします。協会の加減点基準では、外装の傷・へこみ、内装の状態、修復歴、走行距離、車検の残り、装備の有無などが項目になっています(出典1)。これを下敷きに、自店でよく扱う車種で出やすい減点を、引く幅つきで一枚にまとめます。

減点・加点の項目判断の目安自店で決めること
外装の傷・へこみ大きさと板金・塗装の要否で段階を分ける段階ごとの引く額(自店の修理実費から)
修復歴該当する骨格部位の修正・交換の有無修復歴ありは別扱い・上限を下げる基準
内装・におい喫煙・ペット・しみの程度クリーニングで戻る範囲と戻らない範囲の線
走行距離年式相応の標準距離との差過走行・少走行の加減点の幅
車検残り・記録簿・装備残り期間、整備記録、純正装備の有無加点する項目と額

引く幅は、感覚ではなく自店の実費から決めます。たとえばバンパーの塗装に2万円かかるなら、その傷の減点は2万円を起点にします。実費に紐づけておくと、担当が替わっても同じ根拠で同じ額を引けます。誰がやっても近い額が出る仕組みづくりは、買取査定のばらつきを仕組みで抑えるでも扱っています。あわせて読むと、表の使い方が固まります。

Q.相場のどの数字を使うかを決める

基本価格と加減点の物差しを揃えても、参照する相場が担当ごとに違えば額はぶれます。基準書には「相場をどこで見て、どの数字を使うか」まで書きます。ここを決めないと、同じ車でもベテランは過去の落札相場、若手は店頭の販売価格を見て、出発点からずれます。

  • 過去の落札相場 ― 同じ車種・年式・走行が、直近のオークション会場でいくらで成約したか。仕入れの出発点になる数字です。
  • いまの店頭相場 ― 同じ条件の車が、近隣や全国の販売店でいくらの売価で並んでいるか。これが想定販売価格の上限です。
  • 自店の販売実績 ― 過去に同じような車を、自店が実際にいくらで何日で売ったか。立地と客層を反映した、最も当てになる数字です。

この3つのうち、どれを基準書の出発点に据えるかを店で一本に決めます。相場のつかみ方そのものは、オートオークションでの仕入れの相場の章で詳しく扱っています。査定で買い取った車は、そのまま自店の在庫になります。買取の額と在庫の重さはつながっているので、回転の側から見たい場合は中古車の在庫が回らない店の数字の見方を読むと、提示額の上限を引き締めやすくなります。

出発点を間違えない:査定の上限は「自店で現実に売れる価格」から逆算します。希望価格や他店の高値の提示を起点にすると、買取額も連動して上がり、買い過ぎと滞留につながります。基準書には、起点に使う相場を1つ名指しで書いておきます。

Q.基準書を回して、ズレを測りながら締める

基準書は、作って棚に置くと使われません。最初の版は完璧でなくてかまいません。よく扱う数車種ぶんの標準状態と減点表、使う相場、残す粗利だけを一枚にして、まず回し始めます。回しながらズレを測り、ズレた箇所を足していくのが、属人化を外す実際の進め方です。

査定基準を揃える手順

やることいつ狙い
ベテランと若手で同じ1台を3段に割って比べる着手日差がどの段に集まるかを特定する
標準状態を写真1枚と文章で固定する1週目物差しの位置を担当でそろえる
よく扱う車種の減点表を実費から作る1〜2週目引く幅の根拠を感覚から数字に変える
使う相場と残す粗利・上限下限を書く2週目出発点とゴールを一本に決める
毎月、同じ車を複数担当で査定しズレ幅を測る毎月言葉になっていない判断を見つけて足す

ズレ幅を毎月測ると、基準書のどこが薄いかが見えます。たとえば修復歴ありの車だけ担当の差が大きいなら、その扱いがまだ言葉になっていないということです。そこを基準書に足せば、次の月のズレ幅は小さくなります。査定と在庫を仕組みで回す全体像は、後の査定・在庫の仕組み化でつなげて扱う予定です。基準書を一本持つことが、その第一歩になります。

Q.よくある質問

査定基準は全国共通なのに、なぜ店ごとに揃えないといけないのですか
全国共通なのは「標準状態と比べてどこを何点加減するか」という加減点の考え方であって、金額そのものではありません。協会の説明でも、出発点の基本価格は各社ごとに、県ごとの小売実績から自店の経費・粗利・整備費を引いて決めるとされています。金額は自店で組み立てるしかなく、その組み立て方を担当ごとに任せると同じ車でも額がぶれます。共通の考え方を土台に、自店の数字をのせた基準を一本に決める必要があります。
査定額がぶれる原因は担当者の経験の差ですか
経験差もありますが、根本は基準が文章になっていないことです。標準状態の置き方、何を何点引くか、相場のどの数字を使うか、粗利をいくら残すかが担当の頭の中にあるだけだと、人が替わるたびに前提が変わります。経験の長い担当に揃えるのではなく、判断の中身を紙に出して全員が同じ手順を踏める形にすると、経験の浅い担当でも近い額になります。
中古自動車査定士の資格があれば査定額は揃いますか
査定士の資格は加減点の共通の考え方を学ぶ土台になりますが、それだけでは自店の額は揃いません。基本価格の置き方や残す粗利は店ごとに違い、資格はそこまでは決めないからです。資格で共通の物差しを身につけたうえで、自店の基本価格と粗利のルールを基準書に足して、はじめて担当をまたいで近い額になります。
小さい店でも査定基準書は必要ですか
担当が二人以上いるなら必要です。一人で査定している間は頭の中の基準でも回りますが、人を増やした瞬間に額がぶれ始めます。むしろ規模が小さいうちに、よく扱う車種ぶんだけでも標準状態と減点項目を一枚にまとめておくと、人を採ったときの引き継ぎが軽くなります。最初から完璧を狙わず、扱いの多い数車種から書き始めるのが現実的です。

出典

  1. 査定の仕組み(基本価格は各社ごとに設定・加減点基準は標準状態と比べる物差し・査定業務実施店 約7,800社/登録査定士 約13.5万人)― 一般財団法人 日本自動車査定協会「査定とは?」http://www.jaai.or.jp/sateitowa.html(取得日 2026-06-04)
  2. 中古自動車査定士技能検定(小型車・大型車の区分/学科・実技の研修と検定/協会への登録)― 一般財団法人 日本自動車査定協会「中古自動車査定士技能検定」http://www.jaai.or.jp/ginoukentei.html(取得日 2026-06-04)
加減点の項目・点数の細部や標準状態の定義は、査定協会の中古自動車査定基準・査定士教本に定められています。本記事は仕組みの考え方を示すもので、各車種の具体の点数は最新の基準を確認してください。基本価格・粗利・減点の実額は自店の経費に合わせて設定するものです。
編集部より

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