Q.紙の台帳だと、なぜ在庫が合わなくなるか

「あの車、まだあったよね」と営業に聞かれて、あなたは台帳のノートをめくり、それでも確信が持てず現車を見に行く。販売サイトには載ったままだが、実は先週商談で出ていた。同じ場面に何度も覚えがあるはずです。在庫の数字が、紙のノート・販売サイト・事務所のホワイトボードでそれぞれ別に動いているのが原因です。

中小企業庁の2024年版中小企業白書では、業務のデジタル化の取組段階を尋ねています。紙や口頭による業務が中心でデジタル化が図られていない「段階1」と答えた事業者は、2019年の61.3%から2024年は30.8%へ下がりました。電子化が進んだ「段階2」は9.5%から26.9%へ増えています(出典1)。紙を中心に回している店は確実に減っています。残っている店ほど、同じ在庫を複数の場所に書き写す二重入力に時間を取られています。

二重入力は、ただ手間がかかるだけではありません。書き写しのたびに数字がずれ、ずれた在庫を信じて値下げや出庫を判断すると、その判断ごと外れます。一元化は、この書き写しを1か所に減らして、ずれの源を断つ作業です。

Q.一元化とは何を一つにすることか

在庫データの一元化とは、1台ごとの情報を、置き場所を一つに決めてそこだけで管理することです。これまで何冊かのノートや複数のファイルに散っていた在庫の情報を、一つの表に集めます。営業が見るのも、事務であるあなたが更新するのも、社長が確認するのも、すべて同じ表にします。

大事なのは「集める」だけでなく「そこにだけ書く」ところまで決めることです。表を作っても、これまでどおりノートにも書き続けると、一元化したつもりで二重入力が増えるだけになります。新しい1か所を正本と決め、古いノートは更新をやめる。ここを曖昧にすると、どの数字が本物か分からない状態に戻ります。

正本を一つに:「在庫のことはこの表を見れば必ず分かる」という1か所を作るのが目的です。紙のノート、表計算ファイル、販売サイトの管理画面のどれを正本にしても構いませんが、正本は必ず一つに絞ります。

Q.まず何の項目を集めるか

一つの表に何を持たせるかを先に決めます。記事冒頭の表の5区分が土台です。1台を1行で表し、その車に関する情報は横に並べます。同じ車を二度登録しないために、車台番号か登録番号を1行の鍵にします。

項目を増やしすぎると、更新が追いつかず空欄だらけになります。まずは在庫を聞かれて答える項目(車種・色・置き場所・販売状況)と、回転を見る項目(仕入れ日・売価)に絞ります。仕入れ日は特に重要です。今日の日付から仕入れ日を引けば、その車が何日在庫として残っているかが出ます。この在庫日数が、後の値下げや出庫の判断材料になります。

まず入れる項目後から足してよい項目
車台番号・車種・年式・色型式・グレード・装備
仕入れ日・仕入れ値仕入れ先・諸費用の内訳
置き場所・販売状況整備の進み・商品化の費用
売価商談履歴・問い合わせ件数

Q.どこにまとめるか ― 紙・表計算・専用システム

置き場所は3つに分かれます。今の台数と、何人で更新するかで選びます。在庫が十数台までで更新するのが1人か2人なら、表計算ソフトで足ります。販売サイトへの出力や複数人の同時更新が手作業で回らなくなってきたら、専用システムを考える段階です。いきなり高い道具から入る必要はありません。

置き場所向く規模・状況注意点
紙の台帳数台で1人が管理同時に見られない・集計が手作業・写し間違いが残る
表計算ソフト十数台まで・1〜2人で更新共有設定をしないと各自のファイルに分かれて元に戻る
在庫管理の専用システム台数が増え同時更新や販売サイト連携が要る費用と入力の手間に見合うか、回らない工程が出てから

表計算を選ぶなら、ファイルを各自のパソコンに保存せず、共有できる場所に1つだけ置きます。コピーが増えると、結局どれが最新か分からなくなり、紙の頃と同じ問題に戻ります。専用システムは、出力や連携で手作業が回らなくなった工程を、はっきりさせてから選ぶと迷いません。

Q.誰がいつ更新する形にするか

表を作るより難しいのが、更新を続けることです。誰が、どの場面で、どの項目を書くかを決めておかないと、入力が止まって表が古くなります。古い表は、紙のノート以下の信頼しか持てません。在庫が動く節目に、更新する人と項目を割り当てます。

在庫が動く場面と、更新する人・項目

場面更新する人書く項目
仕入れた事務1行を新しく作る(車台番号・仕入れ日・仕入れ値)
商談が入った営業販売状況を「商談中」に変える
整備・商品化した整備/事務整備状況・置き場所を変える
売れた事務販売日・売価を入れ、在庫から外す

更新の手間を軽くする工夫も決めておきます。項目の入力を選択式(プルダウン)にすれば、表記のばらつきが減り、後の集計が楽になります。1日の終わりに在庫の表を一度開いて、その日動いた車が反映されているかを確かめる。この短い習慣が、表を生かし続けます。

Q.一元化した在庫を値付けと回転につなぐ

在庫データを一つにまとめる目的は、表をきれいにすることではありません。集めた数字を、値付けと販売回転の判断に使うところまでが一元化です。仕入れ日が入っていれば、在庫日数の長い順に並べ替えるだけで、長く動いていない車が一覧の上に出ます。

長く残る車は、保管の場所も店の現金も縛り続けます。在庫日数が一定を超えた車を毎月見て、値下げするか、業者オークションへ出庫するかを決める。この判断が、紙の台帳では台数が多いほど難しく、一元化した表ではひと並べ替えで済みます。何台持つのが自店に合うかは 中古車の適正在庫は何台か ― 月販と在庫回転から逆算する持ち方 で、月販と回転から逆算しています。あわせて読むと、在庫の持ち方と見える化が一本でつながります。

数字が判断を動かす:在庫日数・原価・売価が一覧で見えると、勘で「そろそろ下げるか」と迷う場面が、数字で「90日を超えたから下げる」と決まります。一元化は、この判断の前提を作る作業です。

Q.最初の一歩 ― 何から手をつけるか

全部を一度に変えようとすると、途中で止まりがちです。次の順で、小さく始めます。

一元化の進め方

やることいつ狙い
今の在庫を1台=1行で表に書き出す初日散っていた情報を一つに集める
車台番号か登録番号を1行の鍵に決める初日同じ車の二重登録を防ぐ
表を共有できる場所に1つだけ置く初週コピーが増えるのを止める
場面ごとに更新する人と項目を割り当てる初週入力が止まらない形にする
古いノートへの記入をやめる2週目正本を一つに絞る

最初の表は粗くて構いません。1台=1行で在庫が一覧になり、古いノートへの記入を止めれば、二重入力はそこで消えます。項目の追加や道具の入れ替えは、回し始めて足りないと分かってからで間に合います。あなたが今日できるのは、散らばった在庫を1枚の表に書き出す一歩です。

Q.よくある質問

在庫管理を一元化するとは、具体的に何をすることですか
在庫1台ごとの情報を、置き場所を一つに決めてそこだけで管理することです。車台番号・車種・年式・走行・仕入れ日・仕入れ値・整備状況・展示場所・販売状況・売価を、一つの表に集めます。営業も事務も同じ表を見て、更新もそこにだけ書く形にすると、紙のノートと販売サイトとホワイトボードで数字がずれる状態がなくなります。
紙の台帳をやめて、いきなり専用システムを入れるべきですか
在庫が十数台までなら表計算ソフトで足り、無理に専用システムを入れる必要はありません。台数が増えて、販売サイトへの出力や複数人での同時更新が手作業で回らなくなったら、専用システムを検討する段階です。まず表計算で項目と更新の形を固め、回らなくなった工程が出てから道具を上げると、移行で迷いません。
在庫データを一元化すると、何が変わりますか
在庫を聞かれて棚や現車を見に行く時間が減り、仕入れ日から数えた在庫日数が一覧で見えるようになります。長く動かない車が数字で浮き上がるので、値下げや業者オークションへの出庫の判断が早くなります。在庫の状態が一目で分かることが、値付けと販売回転の打ち手の前提になります。

出典

  1. 業務のデジタル化の取組段階(段階1「紙や口頭による業務が中心」61.3%→30.8%、段階2「電子化」9.5%→26.9%)― 中小企業庁「2024年版中小企業白書」第7節 DXhttps://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_4_7.html(取得日 2026-06-04)
  2. 2025年の中古車登録・届け出台数(648万7868台、前年比0.2%減)― 一般社団法人日本自動車販売協会連合会「中古車統計データ」https://www.jada.or.jp/pages/114/(取得日 2026-06-04)
中小企業白書の取組段階の割合は全業種の調査値で、自動車店だけの数字ではありません。在庫台帳の項目・道具の選び方は実務の一般的な枠組みであり、自店の業務に合わせて調整してください。
編集部より

在庫台帳の項目づくりや、更新が止まらない形にしたいときは

どの項目から集めるか、表計算と専用システムのどちらで始めるかで迷ったら、相談を受け付けます。今の台数と人数に合わせて、続けられる在庫管理の形を一緒に考えます。

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