Q.なぜ在庫コストは見えなくなるのか
仕入れた車が売れたとき、あなたが利益を計算する起点は仕入れ値です。100万円で仕入れて130万円で売れたから、整備費を引いて手元にいくら残った、という見方です。ここに落とし穴があります。その車が何日ヤードにいたかが、計算に入っていません。
動かない在庫は、その日その日であなたの現金を削ります。仕入れに使った100万円は売れるまで戻らず、その間も金利がかかります。1台分の敷地と移動の手間も毎日かかります。相場は待ってくれず、店頭で並べているうちに値が下がります。この3つに登録状態によっては税が乗ります。どれも仕入れ値の伝票には出てこないので、売れた瞬間の粗利だけを見ていると、まるごと見落とします。
2025年の中古車年間取引台数は約648万台で、前年を0.2%下回り、3年ぶりの前年割れになりました(出典2)。市場が一本調子で伸びる前提が崩れた局面では、回らない在庫を抱えた分だけ負担が表に出ます。最初の一手は、見えていないコストを1台ずつ数字にすることです。
Q.金利 ― 仕入れ値に縛られた現金
車を1台仕入れると、その金額ぶんの現金が売れるまで戻りません。借入で仕入れているなら、戻らない間ずっと金利を払います。自己資金で仕入れていても、そのお金を別の車に回せば得られたはずの利益を失っているので、見えない金利がかかっているのと同じです。
金利の目安として、日本銀行の貸出約定平均金利では、国内銀行の新規貸出の平均は2024年12月で短期0.798%・総合1.132%でした(出典1)。ただし、これは全国の平均です。自店の実際の負担は、取引銀行の金利、信用保証協会を使うなら保証料、自社割賦で回しているなら手数料で変わります。試算には、この平均値ではなく自店が実際に払っている率を入れてください。
仕入れ100万円の車を金利2.0%で1年寝かせれば、金利だけで2万円が消えます。1台では小さく見えても、在庫30台で長く動かない車が混じれば、利益から静かに引かれ続けます。金利が上がる局面では、長く寝かせる在庫ほどこの負担が重くなります。
Q.保管 ― 敷地と手間が日割りでかかる
在庫を置く敷地には家賃か地代がかかります。自社の土地でも、その区画を在庫が占めている間は別の用途に使えません。1台が占める区画を月あたりの金額に割り戻すと、保管の地代が出ます。
かかるのは場所代だけではありません。在庫を動かさずに保つにも、定期的なエンジン始動、雨後の確認、展示位置の入れ替え、再洗車といった手間が積み上がります。長く置くほど、ほこりや色あせ、バッテリー上がりの手当ても増えます。これらを1台月1万円といった形で換算し、保有コストに足します。実際の地代や人件費から、自店の1台あたりの月額を一度きちんと出しておくと、以降の試算が速くなります。
Q.税 ― 寝かせる車と展示する車で分かれる
自動車税種別割は、4月1日時点の所有者にかかります(出典3)。在庫車の税は、この登録状態で扱いが分かれます。ここを整理しておくと、抑えられる税が見えてきます。
- 一時抹消登録をして寝かせている商品車 ― ナンバーを外した状態なので、自動車税種別割はかかりません。長く寝かせる見込みの車は、抹消して保有コストの税をゼロにできます。
- 登録を残して展示・試乗に使う車 ― 所有者として課税の対象です。すぐ売れる見込みの定番車や、試乗で売る車はこちら。
- 割賦販売で所有権が自店にある販売車 ― 課税は使用者であるお客さまが負担します(出典3)。
すべての在庫を登録したまま並べておく必要はありません。展示で回す車と、抹消して寝かせる車を分けると、長期在庫にかかる税の一部を抑えられます。抹消と再登録には手間と費用がかかるので、すぐ動く車まで抹消する必要はありません。寝かせる期間の見込みで線を引きます。
Q.値落ち ― いちばん大きく、いちばん見えにくい
4つのコストのうち、金額がいちばん大きくなりやすいのが値落ちです。そして伝票に一切出てこないので、いちばん見落とされます。仕入れた時の店頭相場が120万円でも、半年並べているうちに相場全体が下がれば、同じ車がもう110万円でしか売れません。この10万円は、何もしなくても消えた額です。
値落ちの速さは車によって違います。新型への切り替えが近いモデル、季節商品の性格が強い車、過走行や不人気の仕様は、相場の下がりが速い傾向があります。逆に、相場のはっきりした定番車は下がりがゆるやかです。自店の販売実績から、車種ごとにひと月でどれくらい下がってきたかを振り返ると、値落ちの年額を仮置きできます。
値落ちが効くからこそ、「もう少し粘れば希望価格で売れるかもしれない」という判断は危うくなります。粘っている間も金利・保管・税が日割りでかかり、その上で相場そのものが下がっていきます。回らない在庫が現金をどう削るかは、中古車の在庫が回らない店の数字の見方 でも在庫日数の出し方から扱っています。
Q.在庫日数の上限を引いて動かす
1台の1日あたりの保有コストが出れば、判断の物差しが手に入ります。冒頭の例なら1日約710円。これに在庫日数を掛けた額が、その車があなたの利益から差し引いている保有コストです。60日で約4.3万円、120日で約8.5万円。寝かせるほど膨らみます。
この物差しを使って、車種ごとに在庫日数の上限を引きます。全車一律ではなく、直近1年で同じような車を自店が何日で売ってきたかの中央値を基準に置きます。その日数を超えたら値下げを検討し、さらに2倍を超えたら会場への出品を検討する、という二段の線にすると判断が遅れません。
在庫を提示額の段階から残りにくくする打ち手は 買取の提示額の決め方 で扱っています。仕入れの入口と在庫の出口は、同じ現金の流れの両端です。
Q.来週からやること
在庫コストを見える化するのに、新しい仕組みは要りません。この順で1台ずつ数字にしていきます。
在庫コストを見える化する手順
| やること | いつ | 狙い |
|---|---|---|
| 自店の調達金利と1台あたり月の保管額を確定する | 今週 | 試算の土台になる2つの率を決める |
| 在庫1台ごとに1日あたりの保有コストを出す | 今週 | 寝かせて失う額を金額で見える化する |
| 長く寝かせる車は抹消、展示で回す車は登録、と仕分ける | 今月 | 在庫にかかる税の一部を抑える |
| 車種ごとに在庫日数の上限を二段で引く | 今月 | 値下げ・出品の判断を遅らせない |
| 上限を超えた車を週に一度、棚卸しして動かす | 毎週 | 滞留を翌週に持ち越さない |
最初の数字はざっくりで構いません。1台が1日いくら食うかを出すだけで、いままで見えなかった現金の流出が表に出ます。販売後に実際の在庫日数を記録していけば、車種ごとの上限の精度が上がり、仕入れの段階でも回る車を選びやすくなります。
Q.よくある質問
出典
- 国内銀行の新規貸出約定平均金利(短期0.798%・総合1.132%、2024年12月)― 日本銀行「貸出約定平均金利」https://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/yaku/index.htm(取得日 2026-03-18)
- 2025年の中古車年間取引台数(約648万台・前年比0.2%減・3年ぶり前年割れ)― 車選びドットコム「中古車市場統計レポート 2025年12月」https://www.kurumaerabi.co.jp/useful-details/34477/(取得日 2026-03-18)
- 自動車税種別割の課税対象(4月1日時点の所有者・割賦で所有権が販売店にある場合は使用者)― 東京都主税局「自動車税種別割」https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shitsumon/automobiles/j(取得日 2026-03-18)
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