採れないのは、あなたの店の努力不足ではない

求人サイトに枠を出し、ハローワークにも出し、知り合いにも声をかけた。それでも整備士の応募が一件も来ない月がある。あなたの店の出し方や待遇のせいだと感じているなら、まず採用の競争がどれだけ厳しいか、数字で確かめてください。

整備士の有効求人倍率は、令和5年度で5.56倍です。全職種の平均が約1.2倍ですから、整備の現場は全職種のおよそ五倍、限られた人を奪い合っています。整備士の数も令和6年3月末で約32.9万人まで減り、平成25年度の約34.3万人から10年強で1.4万人ほど少なくなりました。供給そのものが細り続けています。

つまり、応募が来ない状態は一店の問題ではありません。あなたが求人票をどれだけ磨いても、奪い合う人の数が足りていない。ここで「もっと良い求人を出せば採れる」と採用一本に賭けると、採れなかった年に打つ手がなくなります。採用は続けます。同時に、採れなくても回る備えを持つ、というのがこの記事の立ち位置です。

人は減るのに仕事は減らない、という困りごと

人が減っているなら、仕事も同じだけ減ってくれれば困りません。実際は逆です。整備の総売上は令和5年度で5兆9,072億円、前年より1,684億円増えました。保有されている車は今も整備と車検を必要としていて、整備への需要は減っていません。

人だけが細り、仕事は減らない。この差が、あなたの現場の残業や納期の遅れになって出ています。整備士一人あたりがこなす量を上げないと、同じ仕事を同じ人数で回しきれなくなる、ということです。

見るところ数字向き
整備士の数(令和6年3月末)約32.9万人減っている
10年強での増減約 −1.4万人減っている
整備の有効求人倍率(令和5年度)5.56倍採りにくい
整備の総売上(令和5年度)5兆9,072億円増えている

数字は出典・対象年度で変わります。本文の値は出典と年度をセットで読んでください。

採用で人を足すのが正攻法に見えますが、足せる人がいないのが今の競争です。だとすれば、もう一つの分母、つまり「一人がこなせる量」を上げるしかありません。次の章から、その具体的な打ち手を見ます。

採用に頼らない備えは、向きで整理できる

「採用以外でどうする」と問われると幅広く感じますが、打ち手の向きは整理できます。あなたの店がどれから着手するかを決めるための地図として使ってください。

  1. 同じ人数でこなす量を増やす:設備(スキャンツール、入庫管理のシステム)と段取りで、一台あたりにかかる手間と待ち時間を減らす。国の補助と認証要件の緩和がここに効きます。
  2. 抱え込んだ仕事を外に出す:自店でやると割に合わない作業(年に数回の特殊な車種、重整備)を、外注や近隣店との協業に出す。空いた時間を回転の速い仕事に回します。
  3. 受ける仕事を絞る:入庫の山と谷を平準化し、利益の薄い仕事から距離を置いて、車検・点検のような回転の速い仕事に時間をかける。

三つの向きは別々ではなく、つながっています。設備で省人化して空いた時間を、外注で手放した重整備の代わりに車検へ回す。受ける仕事を絞るから、残った人で回りきる。順番は、まず①で土台を作り、②で荷物を下ろし、③で残す仕事を選ぶ、と進めます。

同じ人数でこなす量を、設備と段取りで増やす

一人あたりの量を上げる打ち手には、いま国が後押しをつけています。国土交通省の「省力化投資促進プラン」(自動車整備業)は、省人化の設備投資を促す柱を並べていて、あなたが使える追い風になります。

効くのは設備だけではありません。この設備投資に、必要な人数の基準そのものを下げる制度の見直しが重なります。省力化機器を入れて一定の要件を満たすと、大型車を扱う指定工場の最低工員数が5人から4人に緩む方向が示されています。電子制御装置整備の事業場ではスキャンツールの導入が義務づけられ、スキャンツールを使った点検が令和7年10月8日から認められます。設備で人を補うほど、求められる人数の基準が下がる、という二重の効きです。

制度の確認は最新版で

工員数の緩和やスキャンツールの要件は、対象となる工場の種類・規模や満たすべき条件が細かく決まっています。ここで挙げたのは向きだけです。「うちは該当するのか」「いつから何が要るのか」は、国土交通省の最新の資料で必ず確かめてから動いてください。

抱え込んだ仕事を外に出し、受ける仕事を絞る

設備で土台を作ったら、次は荷物を下ろします。自店で抱えている作業のうち、割に合わないものを外に出す判断です。

判断の基準はひとつ、その作業に使う一時間と、車検にあてる一時間の、どちらが稼ぐかです。年に数回しか来ない車種の重整備や、特殊な電子制御の作業は、自店でやると段取りと調べ物に時間を取られて割に合わないことがあります。それを外注や近隣店との協業に出し、空いた時間を回転の速い車検・点検に回せば、同じ人数の稼ぎは増えます。外注費を見える形にして、自店で持つ作業と外に出す作業の線を引いてください。

絞る打ち手は、入庫の山と谷をならすことから始めます。国土交通省の生産性向上のガイドラインも、入庫の平準化と、定期的な入庫をつくるメンテナンスパックの活用を挙げています。車検や点検の予約を月の前半と後半に散らし、暇な時期に来てもらう割引を用意すれば、忙しい日の取りこぼしと、暇な日の手すきの両方が減ります。同じ人数でも、ならせば回せる量は増えます。

料金の見直しも、絞る打ち手の一つです。整備料金は「標準作業時間 × 一時間あたりの工賃」で決まります。安く請けた作業のしわ寄せが人件費に回ると、設備投資も賃上げもできません。標準作業時間と工賃を、原価と相場に照らして見直してください。

あなたの店が来週から動ける順番

大きな制度の話で終わらせず、月曜から動ける形にします。順番は前の章のとおり、設備で量を増やし、荷物を外に出し、受ける仕事を絞る、です。

今週やる:使える追い風を確認する
  • 国の省力化の補助で、自店が入れたい設備(入庫管理・スキャンツール・リフト)が対象になるか調べる
  • 工員数の緩和やスキャンツールの要件で、自店の工場の種類が該当するかを国交省の最新資料で確認する
  • 直近一か月で、受付から完成まで一番待ち時間が出ている工程を一つ書き出す
今月やる:荷物を下ろし、山をならす
  • 自店でやって割に合わない作業を洗い出し、外注・近隣店との協業に出せるか相談する
  • 車検・点検の予約が月のどこに偏っているか台帳で見て、暇な時期へ誘導する割引を決める
  • メンテナンスパックなど、定期的な入庫をつくる仕組みがあるか点検する
今期やる:残す仕事と料金を選び直す
  • 整備料金の標準作業時間と工賃を、原価と相場に照らして見直す
  • 外注費を見える形にして、自店で持つ作業と外に出す作業の線を引き直す

採れない年は続きます。採用を続けながら、同じ人数でこなす量を増やし、割に合わない荷物を下ろし、受ける仕事を選ぶ。この備えを先に持った店から、人手不足の波を越えていけます。