苦情を言ってきた客より、黙って去る客のほうが多い
車検でひと言もらった客が、翌年来なくなった。その一件が頭に残って、苦情を受けるたびに「また一人失った」と感じていませんか。あなたが本当に失っているのは、声をあげた客ではありません。何も言わずに翌年だまって他店へ移る客です。
不満を持った客のうち、店に苦情を伝えてくるのはごく一部だと示されています。残りの多くは、何も言わずにそのまま離れていきます。苦情を言ってくれた客は、まだ関係を続ける気があり、店に直してほしいと思っている客です。声をあげた客は、去る前にもう一度だけくれた機会だと受け取るところから始めます。
どの苦情かで、戻し方は変わる
すべての苦情を同じ手当てで扱おうとすると続きません。あなたの店で起きる苦情は、料金・整備・応対のどこから来たかで戻し方が変わります。出どころが違えば、その場でやることと、次の車検までに残すことも変わります。
| 苦情の出どころ | よくある場面 | その場でやること | 戻りやすさ |
|---|---|---|---|
| 料金・説明 | 見積もりと請求が違う/追加整備が事前に伝わっていない | 内訳を一つずつ示し、伝え漏れを認めて直す | 戻りやすい |
| 整備・品質 | 直したはずの不具合が残る/別の不調が出た | もう一度預かって原因を確かめ、処置を約束する | 対応次第で戻る |
| 応対・待ち | 連絡が遅い/代車がない/言い方が冷たい | その場で詫び、次回どう変えるかを具体的に伝える | 戻りやすい |
料金や応対のように、こちらの説明不足や手際で起きた苦情は、原因をはっきり伝えて直すと関係が戻りやすい部類です。整備の品質に関わるものは、もう一度預かって確かめる手間がかかる分、その向き合い方そのものを客が見ています。一方、約束していないことを求められた場合は、できる線引きをその場で示します。どれも、収めたあと台帳に残す点は同じです。
その場で収める ― 謝りの前に、まず聞いて確かめる
苦情を受けると、その場をおさめたくて先に謝ってしまいがちです。順番が逆だと、客は「中身を分かっていない謝り」と受け取ります。あなたが最初にすることは、謝ることではなく聞いて確かめることです。
- 最後まで聞く:途中でさえぎらず、何が・いつ・どう困ったかを言い切ってもらいます。話している間に、客の熱はいくらか下がります。
- 事実を確かめる:作業の記録や見積もりと照らして、何が起きたかを店側でも確認します。思い込みで答えません。
- できる処置を出す:直せること・直せないことを分け、いつまでに何をするかを具体的に伝えます。
- こちらの非は認める:店に落ち度があれば、はっきり詫びます。あいまいな詫びは、かえって不信を残します。
この4手を踏むと、その場の温度は下がります。ただし、ここで終わると客の頭には不満が残ったまま次の車検が来ます。収まったように見えても、まだ半分です。
謝って終わりにしない ― やったことを一度連絡する
その場が収まったあと、何も連絡しないままにしていませんか。客は「言ったけれど、結局どうなったのか分からない」という気持ちを抱えたまま離れます。後日もう一度だけ、やったことを伝える連絡を入れます。
長い文面はいりません。電話でも、はがきでも、LINEでもかまいません。伝えるのは、原因・処置・再発したときの対応です。
- 原因:何が起きていたのか。分かった範囲で正直に伝えます。
- 処置:それに対して店が何をしたか。直した内容を一言で。
- 再発時:もし同じことが起きたら、どうするか。次の安心につながります。
この一度の連絡があると、客の頭の中で一件は「未解決のしこり」から「きちんと収まった話」に変わります。謝りで終わるか、もう一度連絡するか。この一手が、翌年戻る客と去る客を分けます。
台帳に一件を残し、次の車検で引けるようにする
苦情を収めても、それを覚えているのが担当者一人の頭の中だけだと、次の車検までもちません。担当が変われば消えますし、本人も1年経てば忘れます。収めた一件は、人の記憶ではなく台帳に残します。残すのは、苦情の中身・どう収めたか・触れてよい範囲です。
| 残す項目 | 書く中身 | 次の案内でどう使うか |
|---|---|---|
| 苦情の中身 | いつ・何について・どんな不満だったか | 同じ話を蒸し返さないよう、こちらが分かっておく |
| どう収めたか | 伝えた原因・した処置・約束したこと | 次に会ったとき、その後の調子をひと言たずねる |
| 触れてよい範囲 | 本人が気にしている点/触れないほうがよい点 | 案内の言い方を、その客に合わせて変える |
こうして残しておくと、次回車検日が来たときに台帳を引くだけで、その客に最初に声をかけられます。「先日はご迷惑をおかけしました。その後、調子はいかがですか」のひと言が、ふつうの案内はがきより効きます。台帳の作り方そのものは関連記事にあります。ここでは、苦情の一件を必ずそこへ載せる、と決めるだけで十分です。
去ってからでは遅い ― 反応の薄れで先に気づく
ここまでは、苦情を言ってきてくれた客の話でした。本当に怖いのは、何も言わずに去る客のほうです。その客には、去ってから追いかけるのではなく、去る前のサインで気づく仕組みを持ちます。あなたの店で次のような静かな変化が出たら、不満のまま離れかけている合図です。
- 車検の案内を出しても、返事が来なくなった。
- 点検をすすめても、入庫してこなくなった。
- 以前は世間話をしていた客が、用件だけで帰るようになった。
こうした薄れは、苦情のように分かりやすく出てきません。だからこそ台帳が要ります。次回車検日で台帳を引き、案内に反応がなかった客に、もう一度だけ声をかけます。それでも戻らない客がどれだけいるかを数えると、店の弱いところが見えてきます。誰がいつ離れたかを台帳で数える手順は、関連記事に続きます。まず今日、直近で苦情を受けた客に台帳で印を付け、次の車検が来たら最初に声をかけるところから始めます。