Q.下取りで損が出るのは、新車の値引きと混ぜたとき
新車や乗り換えの商談で、お客さまが「いま乗っている車はいくらで引き取ってくれるのか」と聞いてくる。あなたは商談をまとめたい一心で、本体の値引きを渋るかわりに下取りを高めに付ける。よくある場面です。新車国内販売は2025年に456万台(前年比3.3%増、2年ぶりのプラス)まで戻りました(出典1)。新車が動けば、その台数のぶんだけ下取り車が店に入ってきます。
このとき下取り価格を新車の値引きの調整弁にすると、その車を自店でいくらに売れるかという仕入れの計算が消えます。本来750,000円が上限の車に、商談を通すため90万円を付けてしまう。差の15万円は、その車が売れた日に粗利から消えるか、売れずに在庫として現金を縛ります。下取りの損は、引き取った瞬間にもう決まっています。
分けて考えれば防げます。新車の値引きは新車の利益で判断する。下取り価格は、その車を自店の在庫にするか流すかを決めたうえで、売価から逆算した上限の中で付ける。この2つを混ぜないだけで、下取りはあなたの店で最も安い仕入れに変わります。
Q.下取りも買い取り ― 古物商許可と帳簿の前提
下取りは、お客さまから中古車を買い取って自店の販売在庫にする行為です。買い取って販売する事業には、古物営業法に基づく古物商許可が要ります。許可は営業所を管轄する警察署を経由して公安委員会に申請し、申請手数料は19,000円です。一度取得すれば有効期間の定めはありません(出典2・出典3)。
許可を取ると、下取りや引き渡しのつど取引を記録する帳簿の備付けと、相手方の確認が義務になります。この帳簿は形式を守る作業ではなく、後で扱う消費税の特例にそのまま関わってきます。下取り票とは別に、古物台帳の要件を満たす形で残しておくと、決算期にあわてずに済みます。
Q.自店の在庫にする車・流す車を分ける
下取り車が入ってきたら、最初に決めるのは「自店の在庫として並べるか、オークションへ流して現金化するか」です。ここを曖昧にしたまま価格を付けると、上限の出し方そのものが定まりません。
| 自店の在庫にする | オークションへ流す |
|---|---|
| 自店の客層に売り先が浮かぶ | 誰に売るか想像できない |
| 過去に自店で短い日数で売れた車種 | 過去に滞留した車種・不人気の色や仕様 |
| 商品化の手間と費用が読める | 修復歴あり・過走行で手当てが重い |
| 並べれば回ると見込める定番車 | 相場が読めない珍しい車・特殊な仕様 |
右側の車を「せっかく取ったから」と自店に並べると、売れずに残って現金を縛ります。回らない在庫が店の現金をどう削るかは 中古車の在庫が回らない店の数字の見方 で扱っています。流すと決めた車は、未練を残さず会場へ出す。下取りで店を太らせるのは、在庫化する車の選別の精度です。
Q.下取り価格の上限を組み立てる
在庫化か転売かを決めたら、それぞれで上限を逆算します。冒頭の表のとおり、起点となる価格と引く費用が変わります。
自店の在庫にする車
起点は、その車を自店でいくらに売れるかという想定販売価格です。そこから商品化・整備の費用と、確保したい目標粗利を引きます。想定販売価格100万円・商品化整備10万円・目標粗利15万円なら、下取り価格の上限は75万円です。この75万円を超えて付けるぶんは、売れた日に粗利を削るか、売れ残って在庫を重くします。
オークションへ流す車
起点は、会場で落札される想定の落札価格です。そこから会場の手数料と陸送費を引いた額が上限になります。想定落札価格80万円・会場手数料3万円・陸送費2万円なら、上限はやはり75万円。流す車は自店の整備費がかからないぶん、転売の経費を引き残さないことで上限が締まります。
Q.想定販売価格を相場でどう固めるか
上限の精度は、起点に置く想定販売価格の精度で決まります。その想定販売価格は相場から引きます。重ねる数字は3つです。
- 過去の落札相場 ― 同じ車種・年式・走行・グレードが、直近の会場でいくらで成約したか。流す前提の上限を出す根拠になります。
- いまの店頭相場 ― 同じ条件の車が、近隣や全国の販売店でいくらの売価で並んでいるか。これが自店在庫にした場合の想定販売価格の上限です。
- 自店の販売実績 ― 過去に同じような車を、自店が実際にいくらで何日で売ったか。立地と客層を映した、最も当てになる数字です。
相場のつかみ方そのものは 中古車の相場のつかみ方 で詳しく扱っています。商談の場で即答を求められる下取りこそ、事前に狙い車種の相場を手元に置いておくと、その場で上限を外さずに済みます。査定額の根拠は、JAAI(日本自動車査定協会)の全国共通の中古車査定基準が業界の土台です。査定を担う中古自動車査定士は小型車・大型車の2区分があり、3年ごとの研修で資格を更新します(出典4)。
Q.一般のお客さまからの下取りと消費税
下取りの多くは、一般のお客さまから直接引き取る車です。このとき関わるのが消費税の扱いです。適格請求書(インボイス)の制度では、適格請求書がない仕入れは原則として仕入税額控除ができません。一般のお客さまは適格請求書を発行しないので、本来なら控除できないことになります。
ただし古物商には特例があります。古物商が、適格請求書発行事業者でない相手(一般の個人など)から販売目的で中古車を買い取った場合、一定の帳簿記載要件を満たせば、適格請求書がなくても仕入税額控除が認められます(出典5)。下取りも販売目的の買い取りとして対象になりえます。一般のお客さまからの下取りが多い店ほど、効いてくる特例です。
Q.次の下取りでやること
次に下取りの話が出る前に、この順で準備します。
下取りを仕入れに変える手順
| やること | いつ | 狙い |
|---|---|---|
| よく下取りに出る車種の相場を調べておく | 商談前 | その場で上限を外さず即答する |
| 在庫化か転売かを1台ごとに先に決める | 引き取り時 | 上限の出し方を定める |
| 売価から逆算した上限の中で下取り価格を付ける | 商談中 | 新車値引きと混ぜない |
| 下取り価格・想定販売価格・判断を帳簿に残す | 引き取り後 | 古物台帳と消費税の要件を満たす |
| 実際の販売額と販売日数を記録する | 販売後 | 次の想定販売価格の精度を上げる |
引き取って終わりにせず、その車が実際にいくらで何日で売れたかを記録します。想定と実績のずれが見えれば、次の下取りで価格の付け方が締まります。下取りを仕入れの主力に育てられるかは、この記録を重ねた回数で決まります。提示額の逆算をさらに細かく詰めたいときは 買取の提示額、粗利から逆算して決める も合わせて読めます。
Q.よくある質問
出典
- 2025年の国内新車販売台数(456万5777台・前年比3.3%増・2年ぶりプラス/登録車289万8417台・軽自動車166万7360台)― 日本自動車会議所(自販連・全軽自協の統計に基づく)https://www.aba-j.or.jp/info/industry/25547/(取得日 2026-06-04)
- 古物商許可の申請先・申請手数料(19,000円)― 警視庁「古物商許可申請」https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/tetsuzuki/kyoka.html(取得日 2026-06-04)
- 古物商の確認義務・帳簿の備付け(古物営業法 第15条・第16条)― e-Gov 法令検索「古物営業法」https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000108(取得日 2026-06-04)
- 全国共通の中古車査定基準・中古自動車査定士の区分(小型車/大型車)と3年ごとの更新研修 ― 一般財団法人 日本自動車査定協会(JAAI)「技能検定」http://www.jaai.or.jp/ginoukentei.html(取得日 2026-06-04)
- 古物商の仕入れに関する消費税の特例(適格請求書がなくても帳簿記載で仕入税額控除)― 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問106https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/106.pdf(取得日 2026-06-04)
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